川のある風景

こんにちは、検索迷子です。


津波の被害にあった方にとって、海や川は、これからどう見えるのか、
それが気になっている。
PTSDと言われる状態に苦しめられていくのだろうか、
それとも受け止められるのだろうか。


何か大きな災害や事故があると、人はその後遺症に苦しむといわれる。
実際に余震が続くなか、被災地の方はもちろんのこと、
震源地から離れた地域にいる人も、
慢性的な船酔いのような揺れの感覚がおさまらないと言う。
その症状は、経験した人にしかわからない壮絶なものだろう。

Yahoo!ヘルスケア − 外傷後ストレス障害/PTSD


概説
阪神・淡路大震災の後、PTSDという言葉がマスコミで大きく取り上げられてすっかり有名になりました。それ以来、何か大きな事件や出来事が起こるたびにPTSDが注目を集めるようになりました。
 PTSDとは、何か脅威的なあるいは破局的な出来事を経験した後、長く続く心身の病的反応で、その出来事の再体験(そのことをありありと思い出すフラッシュバックや苦痛を伴う悪夢)が特徴的です。通常はショックな出来事を体験しても時間の経過とともに心身の反応は落ち着き記憶は薄れていきますが、あまりにもショックが大きすぎる時や個人のストレスに対する過敏性が強い時、小児のように自我が未発達な段階では、大きな障害を残すことがあります。

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症状/診断
PTSDの症状は、[1]外傷的な出来事の再体験(フラッシュバックや苦痛を伴う悪夢)、[2]類似した出来事に対する強い心理的苦痛と回避行動、[3]持続的な覚醒亢進(こうしん)症状(睡眠障害、ちょっとした刺激にも反応を示す、集中困難、過度の警戒心、過剰な驚愕反応など)です。これらの症状が、心的外傷後、数週間〜数カ月の間に発症し、数カ月〜数年続くというものです。外傷的な出来事としては、大きな自然災害(地震、洪水、火山の噴火など)、人工災害(原発事故、航空機事故、列車事故、大きな交通事故、火災など)(後略)


大きな被害を受けた場合、似たような状況が怖くなるといわれる。
たとえば、電車で事故に巻き込まれた後は、電車に乗れないとか、
閉所に閉じ込められた後はエレベーターが怖いとか。


今回、洪水の被害にあった方にとって、水は脅威になるのだろうか。
水は生きていくものに欠かせないものだ。
それは主に飲料水や生活用水としてのものではあるが、
水を避けては生きられない。


また、漁業や職業によっては生活を支える基盤だったり、
住民にとって時には癒しだったであろう水辺での生活が、
洪水によって、水の脅威にさらされてしまったとき、
これからどう海や川のある景色をとらえていくのだろう。


そんな洪水による被害の苦しみがある方に、
もしかしたら海を想起させるような詩は酷かもしれないと思いつつ、
でも、水辺に住む暮らしの光の部分を思い返し、
これから生きていくうえでの救いにならないかと思って、
石垣りんさんの詩、「川のある風景」をご紹介します。

川のある風景  石垣りん


夜の底には
ふとんが流れています。


川の底を川床と言い
人が眠りにつくそこのところを
寝床と言います。


生まれたその日から
細く流れていました。


私たち
今日から明日へ行くには
この川に浮き沈みしながら
運ばれてゆくよりほかありません。


川の中に
夢も希望も住んでいます。
川のほとりに
木も草も茂っています。
いのちの洗濯もします。


川岸に
時にはカッパも幽霊も現われます。


川が流れています。
深くなったり
浅くなったり


みんな
その川のほとりに住んでいます。


引用元:『石垣りん詩集』ハルキ文庫
 編・解説:粕谷栄市(かすや・えいいち)さん
 エッセイ:落合恵子(おちあい・けいこ)さん

石垣りん詩集 (ハルキ文庫)

石垣りん詩集 (ハルキ文庫)



今日から明日へ行くには、
流れに沿って、運ばれてゆくよりほかない。
今までそこで生活してきて、
これからも生活していこうという気持ちがあるなら、
流れに沿って生きるしかないのだろう。


川の中には、
夢も希望も住んでいるのだと思いながら。
実際に、本当にそうでありますようにと願いを込めたい。
そして、水辺の暮らしが穏やかなものになることを祈りたいと思う。


いつか、静かな水の流れのような、
本当の寝床につけますように。


川のある風景、海のある風景に、
木や草とともに、いのちの洗濯をした日々が、
思い出のなかだけではなく、再び訪れますように。


ひんやりとした、でもやさしい水の手触りに、
もう一度、深呼吸できるような時間が来ますように。

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石垣りんさんの詩については、過去にもレビューしています。
よろしければあわせてお読みください。
石垣りんの「表札」の潔さ
石垣りんの『貧しい町』
石垣りんの先見性(私の前にある鍋とお釜と燃える火と)
石垣りんの「峠」
空をかついで
洗剤のある風景


では、また。