水谷豊さん監督・主演『TAP -THE LAST SHOW-』鑑賞レビュー

こんにちは、検索迷子です。


今日は、水谷豊さん監督・主演映画、『TAP -THE LAST SHOW-』の感想を書こうと思う。
『TAP -THE LAST SHOW-』公式サイト


このTAPの映画があまりに好きすぎて、3回観た。立て続けに3回観た映画は初めてだ。
そして、普段めったにやらないが、映画のエッセンスを取りこぼしたくなくて、3回とも暗闇のなかノートを取りながら、がっつりと観た。


レビューを鑑賞ごとにパソコンで下書きしていたら、公開から1か月が過ぎてしまい、上映館が減り若干焦っているが、未鑑賞のかたに届くといいなと思う。


なお、この文章は1万字超あるため、映画のレビューだけを観たいかたは、3〜6の見出し箇所をご覧いただきたい。

1.映画との不思議な縁

本題のレビューに入る前に、私自身がどんな立ち位置でこの映画を鑑賞したのかを書いておきたい。


この映画、タップダンスを題材にした映画で、ダンスに興味のないかたももちろん楽しめるが、ダンスに興味のあるかたなら、なお楽しめるというのを体感し、自分の視点を書き残しておきたいと思った。私の視点にさして興味がないかたは、次の見出しからお読みいただければと思う。


私は2年前から、当ブログでSMAP、1年前からRADIOFISH(レディオフィッシュ:オリエンタルラジオを中心とした、ダンス&ボーカルユニット)のことを書いている。が、もともとは、エンタメにそれほど明るいわけではなく、自分を活字寄りの人間だと思っていた。


ところがあるとき、Mステで踊る草なぎ剛さんのダンスの美しさに魅せられ、その思いを追体験したくて、誰かこのことを文章にした人はいないかと探したものの見つからず、ならば自分が書きたいと衝動的にブログを書き始めた。


それからSMAPの記事を多数書いたが、草なぎさんだけでなく、中居正広さん、木村拓哉さん、稲垣吾郎さん、香取慎吾さんが、5人で歌って踊る姿を観るのが好きなんだなと思っていた。


そして1年後、RADIOFISHのパフォーマンスをTVで観たときに、オリラジがこういうユニットをやってるんだという驚きもあったが、4人のダンサーさんである、FISHBOY(フィッシュボーイ)さん、Show-hey(ショーヘイ)さん、SHiN(シン)さん、RIHITO(リヒト)さんに一気に引き込まれた。


全員のフルネームを知っているSMAPとは違い、当時は名前も知らない4人が踊る姿を観て、歌以上に印象に残るダンスを踊るこの4人は、いったいどういうかたたちなのだろうと思った。


それから、イベントやクラブなどで彼らのダンスを間近で見たり、時にお話しをさせていただいたり、ブログで記事を書いたりしながら、自分はダンサーさんの、全身をさらけ出し、ぎりぎりのところまでを見せていく身体性や、ダンサーとしての精神に感銘を受けるんだと次第に気づいていった。


歌のパフォーマンスは、どうしても歌詞の世界観が強くなることが多いが、その歌の世界観に負けない身体の動き、表現力の豊かさ、そこにある凝縮された幸せな時間を、私はこの2つのグループで知った。


あるとき、いろんなエンタメの楽しむ切り口があるなかで、すとんと、あ、自分はダンスを観るのが本当に好きなんだとわかった瞬間があった。


それが、生まれて初めてクラブのオールナイトイベントで、FISHBOYさんとShow-heyさんのダンスを観たときだった。


このことは、2017-01-31 FISHBOYさんとShow-heyさんのショーケースでの輝きで書いているが、手が届きそうな至近距離で、汗も息遣いも目の輝きも、ステップを踏む靴音さえも、はっきりと体感できたその場での経験は大きかった。


お二人の経歴の詳細紹介は長くなりすぎるため割愛するが、世界を舞台に戦えるスキルを持ったダンサーさんのダンスを、肉眼で最初に観られたのはとても意味があった。


動画やTVで編集された映像や、四角い枠のなかに収められたのとは違う、空間を揺らす風向きや、上昇する体温、目の奥にある踊り手の魂のようなものまでを全身で受け止めた時間は、歌詞がない音楽でのダンスパフォーマンスに魅せられた瞬間だった。


一流のパフォーマンスは、身体の芯まで届く、という感じがした。


そして、これから本題に入るTAPの映画も、映画なのにライブ感があって、靴音が身体の芯まで届くような作品だった。


映画館の大スクリーンを前にしながら、何度、本気で歓声をあげそうになり、何度立ち上がって応援したくなったか。それほどまでに、ダンスの臨場感にあふれた映画だ。

2.3月からずっと人に勧め続けた映画

TAPの公開を知ったのは、3月下旬だった。Twitterでたまたま見かけた予告動画を観て、一気に夢中になった。


あまりに予告動画で感銘を受けて、実は私は、TwitterでRADIOFISHのダンサーさん4人に、この映画は6月公開だけどおすすめの作品ですと、勝手にTwitterでメッセージを送りつけたくらいだ(いい迷惑だと思うがそれほど、ダンサーさんにこそ観てほしいと高揚していた)。


そのほかにも、身近な知り合いに、この映画はいい、いいと勧めて回っていた。すると、あるとき幸運にも、試写会の招待状をいただける機会に恵まれた。


5月中旬、50席ほどの東映本社試写室で試写会を鑑賞してきた。これが一度目の鑑賞だ。そして鑑賞後、また周囲にこの映画はいい、いいと勧めて回っていた。


レビューを書こうとした矢先、さらに幸運は続き、Twitter東映公式アカウントさんが実施していた、ペア鑑賞券プレゼントに応募したところ当選した。普段くじ運がないだけに、あまりの幸運にびっくりしつつも、本当にこの映画と縁があるんだと思った。


2枚鑑賞券が当たった、ということは自分一人で後2回観られると思ったが、こうして複数回観る機会をもらったことに感謝し、結局2回とも知人を誘って相手にプレゼントして、自分は自腹で鑑賞した。


3回観て飽きるどころか、さらにこの映画が好きになった。


前置きが長くなったが、本題にいく。

3.TAPのストーリー

映画のストーリーについては、映画公式、各種映画サイトなどに詳しいが、ざっと説明しておく。


かつて天才タップダンサーと言われ、怪我により一線を離脱し、今は酒浸りになった主人公が、旧知の劇場経営者の友人から、劇場閉館公演である「ラストショウ」の演出依頼を受ける。


そこでオーディションが始まり、夢をつかもうとあがく若者たちの人生模様や、ショウビジネスの運営の困難さに直面し、主人公の頑なな心は、ショウを成功させること一点へと向かっていく。


と書くと、若者のサクセスストーリーや、主人公の改心の姿や、若い時に断ち切った思いへの懐古ストーリーと思われるかもしれない。


が、このTAPはそのどれでもない。


もちろん、上記のような側面はある。でも、それ以上に、この映画は、TAPダンスのショウの実現、一夜限りのショウを成功させることにのみ向かって進んでいく話なのだ。


舞台裏の話かと言われれば、その側面はもちろんある。
でも、そこ以上に、ラスト24分の圧巻ダンスショウに向けて、全てが収束されていく。


24分の「ラストショウ」に向かって、前半がメイキング映像だったと思えるような作りになっている。それほどに、ラストのショウがスクリーンの向こうの出来事とは思えないほどに、ショウそのものなのだ。

4.TAPダンスの魅力が満載

TAPダンスといえば、草なぎ剛さん主演の映画『ホテルビーナス』を鑑賞した以来、ほとんどなじみがないジャンルだったが、なんの先入観もなく映画の世界観に没頭できた。


今回特に、女性のタップダンサーの存在を初めて知り、その魅力を知ったこともあり、ダンス映画、エンターテインメント作品として本当に見ごたえを感じた。


この映画をダンス好きの視点で観ていくと、楽しめる点はとても多い。


とにかく、オープニングから、本編から最後の24分間のショウのシーン、そしてエンドロールまでTAP漬けで、一秒たりともTAPを置き去りにするシーンがない。


オープニングすぐとエンドロールは、出演者以外のプロのTAPダンサーが踊るという贅沢な作りだ。こんなに贅沢なオープニングとエンディングを観たことがないというくらい、1秒も無駄なシーンがない。


TAPは素晴らしいというメッセージを、愚直なほどに押し出している。


「ラストショウ」の最後の24分間、私は何度も途中で身体が浮きかかった。気持ちが高揚して、歓声を上げ、立ち上がりたい衝動すら湧いてきた。


いま、映画でも「応援上映」といった形で、声を上げていい鑑賞スタイルもあるようだが、このTAPは声を出してもいい映画として鑑賞してみたいと思ったほどだ。


映画を観ていて、こうやってダイレクトに身体のなかにリズムと靴音が入り込み、スクリーンと鑑賞席の境目を忘れるような体験を初めてした。


まるでその場で、ショウそのものを観ているような気分になり、この大技がうまくいくだろうか、ダンサーさんが踊り切れるかという緊張がダイレクトに伝わり、本当に文字通り、前のめりで映画を鑑賞していたのだと思う。


映画の終わりに客電が明るくなったとき、一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなった。ステージを観に来ていたような錯覚がした。


だから、目の前に真っ白なスクリーンがあるのと観たとき、あ、これは映画だったんだと我に返った。それくらい入り込んでいた。

5.ショウビジネスの裏側と、演者の葛藤

TAPダンスの素晴らしさを知ると同時に、ジャンルを問わず、ダンス業界の周辺にいるかたには、生々しさが伴う場面もあるだろうと思った。


それはオーディションのシーンの厳しさや、一人の人間として、まだ何者とも認知されていないときの雑な扱いだったりするだろう。


なかでも、リズムとともに大勢が一斉に踊り始め、体力と精神の限界まで踊り続け、一人、また一人と離脱していく過酷なシーンは壮絶だ。


音が鳴り続けている限り、ダンサーは踊らなければならないのだというシンプルなことが、本当によくわかる場面だった。


鳴り続ける音から足元がふらつき、身体が崩れ落ちた瞬間、ステージに立つというチャンスも同時に、目の前から崩れ落ちる。


また、指導者に見出される者の高揚感と、そうでない者の屈折や嫉妬、ソロダンスに抜擢されるか否かの才能のジャッジなど、夢があって気合いがあっても、乗り越えることのできない非情さも知らされる。


さらに、舞台に立つために、犠牲にしなければならないさまざまなこと、引き受けなければならない現実をオーディション合格者はさらに突きつけられ、自分自身の覚悟の深さをえぐられるかのように葛藤していく。


それは、恋愛や家族や仲間との関係だったり、健康だったり、収入だったり暮らしの安定だったり人により境遇は異なる。


華やかな舞台に上がるためには、さまつな日常、でもそれが自分の今いる場所だという事実、自分の暮らしや生き方そのものにも、目をそむけず向き合わなければならないという葛藤だったりする。


自分の熱意と才能だけでは物事は動かず、資金や精神面で支えとなってくれる人がいて、レッスンに集中できる環境が整ってこそ、夢の実現に近づけるのだという現実も突きつけられる。


ただ、この映画、賛否両論あるだろうが、その生々しさ、ダンサーの日常や、経営者の資金繰りなどの経営の困難さを描いてはいるものの、過度に深く堀り下げていない。


観る人によっては、一番生々しくて感情移入しやすい、人の生き方の側面を、さらりとしたエピソードにしている部分に、物足りなさを感じるかもしれない。


でも、この映画は、一人ひとりのサクセスストーリーでも、生涯を描いた映画でもなく、「一つのショウ」の完成にいたる、一つの道のりを描いている作品だ。


人が作り上げるショウそのもの、もっと言えば、ステージ上で行われる、その時のショウだけが全て、というゴールに向かっていく。


さまざまな試練を乗り越え、多様な人格を持ち合わせたダンサーがステージに向かって努力して、よくぞここまでと感動するストーリーという見方もできる。


でも私自身は、「ステージには、その日のダンスパフォーマンスしか持ち込めない」という、当たり前の事実だけをまざまざと知ったような思いがした。


人は添え物という言いかたをするつもりはないが、どんなバックボーンを持ったダンサーかを、受け手はたいてい知らないで鑑賞する。ショウで観るものこそ、観客が受け取れるすべてなのだと改めて気づかされた気がする。


ステージに上がれる者は。そのショウの観客を楽しませるために選ばれし者で、エンターティナーって人を喜ばせる仕事なんだと、ごくシンプルなことが最終的には印象に残った。


ラストショウのステージは、ショウそのものを観た気分になった。


特に最初に試写会で鑑賞した際は、ショウの成功を願う思いと、ステージの迫力と緊迫感で、応援の気持ちが高まり、座席から立ち上がりかけたほど、気持ちが前のめりになっていた。


終わった瞬間、自分がどこにいるのか見失うくらい、全身の力を込めてTAPダンスショウを堪能していたことに気づいた。

6.出演者について

出演者のかたの印象に残った場面などを、書いておきたい。チラシにお名前があった、全員のかたをコメントしようと思う。


水谷豊さん
40年思い続けたTAPダンス作品の監督・主演作ということもあり、思いの熱さをどう映像と表情で見せてくれるのか、予告動画からずっと注目してきた。


私にとって水谷さんは、『相棒』のかたというより、『熱中時代』の青くてごつごつした演技が印象深い。


今回の作品は、構想はあるもなかなか実現が叶わず、ご自分が若手TAPダンサー主演でという年代もとうに過ぎた今、ようやく機が熟して実現したというインタビューを見た。


だからなんだろうか。
劇中の台詞、「何度も観たことのある場所に、あいつを連れて行きたい。俺は何度もいった。あいつなら客をも連れていける。」の一言が、映像を飛び越えて胸に染みた。


水谷さんの作品を通して、確かに、見たことのない場所に連れて行かれた観客が、ここに確実にいると伝えたい。


北乃きいさん
夢と葛藤の狭間にいる登場人物たち、そして、映像が2017年を描いているにも関わらず、スモークがかった色彩のためか、昭和色が濃いなか、北乃さんだけが唯一、リアルな今を生きている人物のように見えた。


北乃さんの登場場面だけ、現代に戻ってきたような、地に足をついてほっとするような感じがあり、しばし緊迫感から解放されたような気がした。


とはいえ、彼女もまた、夢を持つ彼を支える強さを持ちつつ迷いを抱える一人なのだが、その悩みすら、共感を得やすい柔らかな演技を見せてくれた。


水夏生さん
ストイックに踊る姿が、本当に似合うかただと思った。TAPダンスが好きでたまらないという熱が、どれだけ映像からにじみ出せるかがこの映画のキモだったと思うが、そこをうまく体現していた。


今回、水谷さんが「役者にダンスをさせるか、ダンサーに演技をさせるか」を悩み、さんざんオーディションをしたという。そこで、「ダンサーに演技をさせる」決断をされたなかでメインダンサー役を得ただけあって、この役柄にぴったりはまっていた。


男性っぽい部分と、少年性を残したところの表情のバランスが良く、清水さんが体現した、「開いたドアと、ドアの向こうにある世界」の先には何があるのか、今後のストーリーも観てみたいと思わされた。


西川大貴さん
自閉症気味でTAPダンスでしか会話ができない、という役柄だったが、徐々にコミュニケーション能力が高まっていく場面の一つひとつ、変化の演じかたがどれも印象深かった。


特に、一度はオーディションに出向くも罵声におびえ帰宅してしまい、再度呼び出された時の、喋らなくていいからダンスで会話を、と言われた時の雰囲気はぞくっとした。


ダンスで語れれば言葉はいらない、ダンサーにとってはダンスこそ自己紹介になり得るということが、余計な言葉などなくても十分に伝わった。そして、コミュニケーションがとりにくい性格でありつつも、振り絞ったダンスをしたいという一言、ここには本当にじーん、とした。


HAMACHIさん
人気ホストとしてファンもつき、非現実空間で客を楽しませるという、ある意味エンターティナーの仕事をしながらも、TAPでステージに立つ夢を捨てていないギラギラした感じを好演していた。


誰かを踏み台にしてのし上がろうという、わかりやすいギラギラ感だったが、ヒール役とか自己顕示欲が強いというよりも、純粋にTAPが好きという内包した思いがあふれ出ていて、人間らしくて良かった。


モデルのような長身と上品な顔立ちからか、劇中でのインパクトもあり、映画館で鑑賞した際、あのホスト役の人やばいね(ほめ言葉として)という声も聞いた。

ほのぼのとした登場人物が多いなか、HAMACHIさんの役柄は、ステージに上がるってことは戦いだという側面を描き、存在自体がスパイスとなって、とても良かったと思う。


太田彩乃さん
太田さんのダンスには本当にびっくりした。今まで、女性のTAPダンサーがいることすら考えたこともなかったが、女性が踊ってもTAPってここまで力強い靴音を響かせ、さらに女性らしい優雅さを見せられるのだと驚いた。


オーディションからレッスンまでの過程で想像した姿以上に、24分間のラストショウのオープニング、ソロ、メインダンサーだけの場面など、踊る女性TAPダンサーって美しいと堪能させてもらった。


なかでも、フラメンコ風の衣裳での艶やかさ、表現力には溜息が出るほどで、この華奢な身体のどこにいったい、このエネルギーがあるのかと思うほどだった。


佐藤瑞季さん
唯一、葛藤のエピソードがないという、明るいキャラとして場を和ませてくれる存在で、登場のたびにほっこりした。


愛嬌キャラ風だが、オーディションを勝ち抜き、メインキャストになった実力を考えると、表には出さないけれど陰ではしっかり努力する人の象徴のようで、ある意味、一番難しいバランスの役柄だったのかなと思う。


自分の痛みを見せることないが、人の痛みには敏感でいられることがわかるシーンがあり、普段とのギャップに、あれ?と思った。この人もまた笑顔の奥に、ステージに上がる厳しさに身をさらし、歯ぎしりしてきた人なのかもしれないと思える繊細さがうかがえ、はっとした。


さなさん
ショウビジネスの舞台裏を支える役割として、夢見がちな人のなかで淡々と仕事をこなす堅実な女性、と思いきや、最後にまさか?というサプライズがあった。


憎まれ口をたたきつつも、地味なことを日々こなしてくれている人こそ、大事な存在なんだと改めて気づかされた。


役割は違えど、心が通い合い、同じ夢を見ているからこそ、同じステージの成功を願い、手を尽くせるんだ、誰一人欠けてもステージは成り立たないんだという、裏方さんを大事にする思いを、さなさんの役柄は教えてくれた。後半の登場場面、本当に良かった。


岸部一徳さん
盟友を演じるのに最適なかたで、演技の上手さはもはや語るでもないが、「夢」という言葉を使う台詞の一つひとつの、微妙なニュアンスの使い分けが印象に残った。


「一緒に、ええ夢見ようや!」と調子づいて言う前半のシーン、「ええ夢、見させてもろた」と言う後半のシーン。その「夢」の重みづけの違いが、この作品は夢を向き合う作品なのだと改めて再確認させてもらった気がした。


六平直政さん
いてくれるだけで、この人ならわかってくれていると思わせてくれる、安心感のある存在って大事だなと、六平さんの役柄を見て思った。


何気ない一言、視線、作り出す空気が長年のつきあいを思わせてくれて、人生にこういう仲間がいてほしいと思わせられる。そこに座っていてくれるだけでいい、それがにじみでる演技が本当にいいなと思った。


前田美波里さん
ビデオカメラ一つで、2017年にいたるまでの時間を暗示させる、静かな演技が素敵だった。言葉で何かを説明する以上に彼女が見てきた時間、過ごした時間がじんわりと胸に染みる。


女性が年齢を重ねることの美しさを、立ち姿、しぐさ一つで見せてくれて、この映画のなかで、時間を重ねていくことは悪くないと思わせてくれる登場をしている。


島田歌穂さん
登場ごとにいい味を出してくれて、パフォーマンスも華麗で、登場は前半と後半だけだが、本当に楽しい気分にさせてもらった。


質の高いエンターティナーという言葉がぴったりで、場を華やかにしてくれて良かった。こういうコミカルさを持ち合わせているとは知らず、素敵な女性だなと、今回とても好きになったかただ。


HIDEBOHさん
今回、映画のTAPダンスの振付・監修もされている、日本を代表するタップダンサーでもあるHIDEBOHさんは、演者としても。タップダンス歴50年という役柄で出演されている。


役者としての出演場面は、島田さんと同じくコミカルなシニアダンサーという設定だが、後半のタップシーンはさすがの一言で、もっとこの場面を観ていたいと思うほどだった。


HIDEBOHさんのTAPダンスは、2016年5月放送の『ナカイの窓』ダンサーSPで拝見していたが、こういう演技を込みでコミカルに踊る姿もありなんだ、TAPダンスってストイックに踊る以外の表現方法もたくさんあるんだ、ということに改めて気づかされた。


今回の映画は、若手のTAPダンサーさんが活躍するショウがメインの内容だったが、年齢を重ねたTAPダンサーさんにしか出せない表現もたくさんあるような気がして、もっとHIDEBOHさんのダンスを観たいと思った。


今回の映画の実現には、たくさんのかたの尽力があったと思うが、やはりTAPダンスの道に精通した、HIDEBOHさんがいてこそ、このクオリティが実現したと思う。


エンターティナーとしてのHIDEBOHさんに敬意を表し、TAPダンスの素晴らしさを見せていただいたことに感謝したい。

7.TAPの公開に携わったすべてのかたに

最後にレビューではなく、手紙風にお礼を書きたい。


TAPが一人でも多くのかたの目に触れることを、心から願ってやみません。
それだけの思いを、この作品からもらいました。


ジャンルを問わず、見たことのないダンスは、その楽しみ方や鑑賞作法がわからず、わざわざそのショウを観に行く機会がないのが実情かと思います。


食わず嫌い以前に、接触機会がないまま良さを知らないということを、TAPだけでなく、今年いくつかのダンスイベントに行き実感しました。


歌詞のない音楽でのダンスパフォーマンスは、万人受けはしないかもしれませんが、エンターテイメントとして確実に人の心を打つ要素があるのは確かです。


だからこそ、気軽に観られる映画という形には、人に届きやすいという価値があるのだと思いました。


ダンサーさんも、伝え続けて行けば、少数でも誰かの心に届くと信じて、踊り、時に語り、パフォーマンスをして行ってほしいと心から願っています。


そして、何でもダンサーに伝えて、教えてと言うばかりでなく、自分ももっとダンサーさんやダンスジャンルを知る努力をしようと、改めて思う作品に出会えて良かったと思っています。



1年前までは、自分もダンスに完全な無知でした。
でも、パフォーマンスに魅せられて、ダンサーさんやダンス業界を理解したいと思い、自分から知識を仕入れに行ったり、ダンサーさんに会いに行ったりしながら、もっと知りたいですというサインを出したり、行動をしてきました。


そして、今こうして、ダンス業界にはいないのに、映画を3回観て、ダンスの魅力を語るレビューを無謀にも書きました。


本業のダンサーさんには失笑されるかもしれないですが、こうして書くことで、私はこう受け止めましたと表明し、無知な自分をさらけ出すことによって、そこの見方は違うよと教えてくれるかたが現れたら本望だと思っています。


TAPという映画、TAPダンスというエンターテイメントで、これからもどうか、観客を見たことのない場所に連れて行ってください。



いま、我に返り文字数を数えたら、ちょうど一万字超えでした。
感動は文字数で表わすものではありませんが、3回の鑑賞機会を与えてくださったご縁に、見せていただいた美しきパフォーマンスに、感謝を込めて。


では、また。