NOと言わせない交渉術

こんにちは、検索迷子です。


以前、『ハーバード流交渉術』についてレビューしたが、
このハーバード流交渉術では解決しえない交渉をより実践に近い形で、
著者の一人が記した本を手にした。


それが、ウィリアム・ユーリー著『決定版ハーバード流"NO"と言わせない交渉術』だ。

決定版 ハーバード流“NO”と言わせない交渉術

決定版 ハーバード流“NO”と言わせない交渉術

【決定版】ハーバード流“NO”と言わせない交渉術

【決定版】ハーバード流“NO”と言わせない交渉術


訳者である、斎藤精一郎さんがあとがきで次のように書いている。

本書は、単なるテクニックの書物ではない。温かい人間哲学と理性的な人間心理学にきっちりと裏づけられた、鋭い人間観察の本でもある。

この紹介にみられるように、ビジネスに限らず、日常的な交渉ごと、
家族や知人など世代にかかわらない、ちょっとした依頼ごとにも応用できる点もありそうだ。


いくつかのポイントとなる要素があるため、引用しながら紹介していく。

ノーと言わせない克服条件


ノーと言われる障害には5つの要素があるという。
相手側の拒否感情、交渉に臨む際の悪癖、合意事項に対する懐疑心、狡猾な悪知恵、自分自身の態度、
であるとしている。
それを克服するのが本書の目的ということだ。
ステップは5段階ある。

ノーと言わせない克服条件の5ステップ

第一のステップ−相手の態度にいちいちまともに反応しないこと
第二のステップ−交渉相手の”武装解除
第三のステップ−ゲームのやり方を変えよ
第四のステップ−交渉相手が”イエス”と言いやすいように話を進めていくこと
第五のステップ−相手が”ノー”と言いにくくなるように話を進めていくこと

交渉術のエッセンスとしては、真っ向勝負型ではなく、
ハーバード流交渉術の「交渉相手を巧みにあなたのペースに乗せていく特殊技術」で、
次のような方法をとるという。

たとえば新しい提案をこちらから次々と出して押し付けようとするのではなく、相手の内側に自分と同じ考えが自然と湧いてくるように巧みに誘導していく。相手に何をすべきかの注文をつけるのではなく、自然とそうするように仕向けていく。あるいは、相手の反抗的な態度を力ずくで撃破しようとするのではなく、彼自身の中でごく素直に、それを改めるのだという気にさせる。そういったことなのだ。

上記の内容を踏まえて、それが本書の章ごとに分かれて紹介されている。
章扉に書かれている秘訣や、本文で気になったエッセンスをピックアップしていく。


性格・やり口を見抜き、ピンチを切り抜ける

ハーバード流交渉秘訣1
相手の交渉態度・戦術にいちいちまともに反応するな。「バルコニー」から状況を的確につかみ、背後事情にまで目を配る法

相手を知り、状況を把握する自分の感情のコントロールがポイントとなる。
まず、人間の典型的な反応パターンには3通りあり、その対処があげられている。

1反撃−「目には目を」ほど高価で非生産的な戦略はない
2譲歩−その場限りの”合意”のための譲歩は、あとで必ず高いツケとなる
3断交−御破算にする前に”得るもの”と””失うもの”を必ず天秤にかけよ

バルコニーから状況をつかむというのは、第三者視点で冷静に評価することである。
交渉を両者の間にとって建設的な方向に向かわせることができ、
双方が満足いくような可能とするためだという。
衝動や感情と距離をおいて交渉にあたれという意味のようだ。


また、交渉の目的も見失ってはならない。
自分にとっての「最良の選択」、最も自分を満足させてくれるものを考えておくことが
大事になってくるようだ。
最良の選択をするには3つの秘訣があるようだ。

あなたにとっての「最良の選択」は、交渉相手との間で到達できるであろう最良の合意点を探り、値踏みする”物差し”となってくれる。
ハーバード流交渉術の基本の一つは、「交渉者双方が、それぞれ自分にとって有利な選択肢を考え出す」ことなのであう。
自分にとっての「最良の選択」を認識するためには、次のような三種類の選択肢があることを知っておく必要がある。
第一は「逃避的選択肢」である。もしあなたが買い手側だった場合、他の売り手を探す。もし、売り手側だったら、他の買い手を探す。そういった類の選択肢である。交渉相手に関係なく、自分一人で自由に決めることができる交渉をいう。
第二は、交渉相手に働きかけてなんとか自分の条件を認めさせようとする「相互作用的選択肢」である。極端な場合はストライキを決行したり、戦争を起こしたりするものである。
第三は、「第三者(委託)的選択肢」である。当事者同士では交渉が行き詰ってしまう場合に、第三者に問題の解決を託し、自分の要求を通そうとする方法だ。法廷で争ったり、調停の場に出ることになる場合もある。
以上の三種類の選択肢に当てはめて、あらゆる可能性を考え出し、その中から最も適切だと判断した方法が「最良の選択」というわけだ。


さらに、交渉では3つの戦術を想定したほうがいいようだ。

1防御的戦術−相手の「既成事実」「会社の方針」に振り回されてはならない
2攻撃的戦術−軽率な「一歩の譲歩」が命取りとなる
3欺瞞的戦術−「データ」はいつも万能とは限らない

このほかにも、
決定権詐欺(自分が決定権者であるかのように振る舞い手の内をすべて出させた後、
他の決定権者にバトンタッチ)や、
要求追加戦術(合意が成立したと思わせたあとで、おもむろに新しい要求を追加)、
というものもあるようだ。


交渉でピンチになったときは、次のようなものを使うといいらしい。

ピンチに大いにものをいう”ジェファーソン効果”


緊迫した交渉の途中で考える時間をもつ最も簡単な方法は、「一息ついて、何も言わないこと」である。相手とのやりとの中で怒りを覚えたり、不満を募らせているときに、下手に反応するとけっしてよい結果にはつながらない。
(中略)
第三代米国大統領だったトーマス・ジェファーソンがいる。彼はこんな言葉を残している。「怒りを感じたときは、口を開く前に一から十まで勘定せよ。ひどく怒りを感じたときは百までだ」

行き詰ったら”テープ”を巻き返せ


じっくりと考える時間を得るためには「テープを巻き戻すこと」を試みればいい。以前に交わした会話を「再生」することで話の進展を遅らせるのだ。交渉相手にこう言う。
「あなたの言い分を私が正しく理解できているかどうかをもう一度確認させてください」
そして、現在紛糾している問題について、ここまで交わされた討論をもう一度はじめに戻って”復習”するのである。

そして、次のステップにいく。


交渉相手を協力者に

ハーバード流交渉秘訣2
相手を完全に”武装解除”してから本交渉に入れ!
すべてが”好意的”に解釈される人間関係づくりの秘訣

武装解除とは、相手の敵意に満ちた感情を和らげることである。
その方法とは意外にも相手が想像することの逆を実行することのようだ。

したたかな交渉相手の強力な攻撃を打ち破るには、その力学を逆用するに限る。相手に自分の話を聞かせたいと思えば、まず自分が相手の話を聞くところから始める。相手に自分の見解を認めさせようと思えば、まずあなたが相手の見解を認める。自分の考えに賛成してもらいたければ、相手の考えに賛成することから始めるのである。


さらに、困難な交渉こそ力を発揮するハーバード流3点セットは次のものだ。

交渉相手の見解を認めてあげること。次に自分の考えをはっきり主張すること。そして、同じように両者の間の食い違いは必ず解決できるという楽観的な見解もはっきり示すこと。

聞くことから始めるのが大切ということだ。


不利な状況を変える

ハーバード流交渉秘訣3
相手を拒絶するな、面子を徹底的に立てよ。
自分に不利な流れを180度変える交渉の「再構築」法と「質問」法


相手を無防備にさせる、質問は次の3つ。
「たまねぎ」戦略法といい、これで情報収集するようだ。

「なぜ、そうしたいのですか」
「何が問題なのですか」
「どのようなことが気にかかるのですか」

さらに、質問戦略の後は、相手の沈黙に解決の糸口もあり、
沈黙を自分から破らないことがコツのようだ。
相手が居心地が悪くなって、心の葛藤が作用して話すのを待つほうがいいという。


交渉の「再構築」法とは、
相手が言ってくるいかなることも拒絶せずに取り込んで、
それらすべてが問題に向かって集中していくように導くことのようだ。


この事例として、日本野球界の王貞治さんのことがあがっている。
王さんは、打者として投手をライバルではなくパートナーと見ていたようだ。
なぜなら、相手が投げてくれるからこそ自分はホームランが打てるから、
というのである。
自分のホームランの協力者という考え方なのである。
王さんの例が登場したことで、本書に親しみがわいたと同時に、
あらためて世界のホームラン王なのだと思った。


手に入れるものに限界はない

ハーバード流交渉秘訣4
何が相手の神経を”逆なで”しているのか、自分の「パイ」を拡大するために何をすべきか−
相手にイエスと言わせやすくする「金の橋(ゴールデン・ブリッジ)」の架け方秘訣


相手の神経を逆なでしている4つの要因が挙げられている。

1相手の「やり方」や「考え方」が気に入らない
2字分の利害に合致しない(基本的要求を満たさない)
3自分の面子を失うことへの恐れ
4問題が大きすぎ、時間がなさすぎる


面子をたてるということでは、
映画製作者のスティーブン・スピルバーグの例があげられている。


13歳の頃、自分をいじめるガキ大将に自作映画のヒーローとして
出演してもらい、相手の攻撃もなくなり、
その後、一番の親友になったということだ。


「お山の大将」ほど他人に大切にされたいと思っていることを見抜き、
本書で提案している、金の橋(ゴールデンブリッジ)をかけることによって、
双方の隔たりを埋めたと言うことなのだ。
13歳でこういうことができるなんてすごいことである。


エスと言わせる秘訣

ハーバード流交渉秘訣5
”力の直接行使”は極力避けよ。
”腕ずく”よりは「第三の力」を引っ張りだせ!
絶対負けられない大事な交渉で百戦百勝する最高秘訣


相手が、絶対「ノー」と言えなくなる、
現実を教師とする最も一般的な3つの質問は、次のものらしい。

1「もし、われわれが合意をしなかったら、どうなると思うか」
2「私はいったいどうすればいいと思うか」
3「あなたならどうするか」


最終的には、最良の選択だけにこだわらず、相互満足を目指す、
というところに交渉を落ち着かせるのがいいようである。

けっして「勝利」を目指すべきではない。代わりに「相互満足」を目指すべきなのだ。「闘う」よりも「教える」ために力を行使するべきなのである。
(中略)
最高の将軍がけっして闘わないのと同じように、最高の交渉者はけっして自分の「最良の選択」は使わない。


金の橋を相手と架けながら、お互いの満足できる選択を一緒に探し、
理を説き、理に耳を傾け、原則に基づいて問題解決に当たっていく、
それがハーバード流交渉術の真髄であると最後はしている。


どのポイントも十分にはできていないかもしれないと、
忘れないためにも引用していくと、どうしても長くなる。


端的に言えば、
交渉ごとは話を聞いて穏やかにとまとめれば、レビューは簡潔に終わる。


でも、現実では、ちょっとしたニュアンスの違いで、
交渉はうまくいかないことを実感しているため、
わかったつもりでは足りないのだと思ってきた。


こういう言葉のなかからヒントを得て、
いろんな交渉を成立させるスキルを得たいものだと思っている。
ちょっとした言葉、態度、姿勢の違いで、
相手も自分も満足できるような結果を出せればいいなと思う。


では、また。