空をかついで

こんにちは、検索迷子です。


石垣りんさんの詩、「空をかついで」をご紹介します。

空をかついで   石垣りん


肩は
首の付け根から
なだらかにのびて。


肩は
地平線のように
つながって。


人はみんなで
空をかついで
きのうからきょうへと。


子どもよ
おまえのその肩に
おとなたちは
きょうからあしたを移しかえる。


この重たさを
この輝きと暗やみを
あまりにちいさいその肩に。


少しずつ
少しずつ。



引用元:『石垣りん詩集』ハルキ文庫
 編・解説:粕谷栄市(かすや・えいいち)さん
 エッセイ:落合恵子(おちあい・けいこ)さん

石垣りん詩集 (ハルキ文庫)

石垣りん詩集 (ハルキ文庫)

この詩は実際は改行されていませんが、横書きにすると圧迫感があるため、
文末の句点(。)がついている箇所で改行しました。


本書のほかにも、この詩を表題とした『空をかついで』の詩集もあります。

空をかついで

空をかついで



今、被災した方もそうでない方も、心に痛みを抱え、
不安に押しつぶされそうになっている人も多いだろう。


明日どうなるのか、これからどうなるのかという問いを、
誰に、どこに向ければいいのかわからなくなっているかもしれない。
私自身、そういう気持ちのなかでこの詩を目にした。


短い詩には、どこにも希望とも未来とも書いてはいない。
「肩」に「かついだ空」、それだけだ。
どんなものかもわからない。
輝きも暗やみもある、それだけだ。


でも、なぜだろう。
たとえ今、全てを失っても、何かに光を見出して、
生きて、生きて、生きて、
そしてその思いを、託して、願って、これからの時代を作り上げようと祈る、
そういうことだって生きる力になるのだと思った。


自分ができることは、できる限りやっていく。
そして、自分の思いをリアルタイムで見せていく。


おとなが子どもに何かを託すというのは、
ともすれば、おとなができなかったことを子どもに押し付ける、
そんな気がしないでもなかった。


だけど、今、被災した土地に住む方からすると、
町が再生していく期間の長さは想像を絶するものがあるだろう。
高齢の方からすると自分が元気に働けるうちに、
どれだけのことができるのかという途方もない気持ちにもなるだろう。


おとなたちは、これから自分たちができることをしながらも、
いつか平穏な時間が訪れて、これまでの生活に戻れるようになるまで、
子ども世代に復興を託していくのは、自然なことかもしれない。


一方的に託すのではなく、
一緒に乗り越えながら、子ども世代に思いを伝承するということが、
この詩に込められていると信じたい。


だから、肩から肩へとつながり、
人が人へと体温で伝え合っていくことが本当に大切なのだと思う。
一緒に、今このときの大変さを刻み込んで、
一緒に、今このときを越えていく。
支えあって、お互いの生き方を見つめ合って生きていく、
そういうことがこれからにつながっていくような気がした。


肩は自分一人のものだけど、一緒にこの空をかついでいる。
それが、同じ時代を生きている私たちの姿なのだ。


人はみんなで
空をかついで
きのうからきょうへと。

そう、昨日からみんなで同じ空をかついでいる。
昨日、あの痛みを味わったのは誰もが同じ。

きょうからあしたを移しかえる。

たとえ、今日が思い通りにならなくても、
明日に思いを移しかえながら生きることができる。


どんな夜だって、
明日に望みをつなぎ、眠りにつきたい。


明日もまた、空をかついで生きよう。
肩を寄せ合える人と、
肩を寄せ合える距離でなくても、
心で、言葉で、ネットで肩を寄せ合える人と。
同じ空をかついでいこう。


誰の肩にも、いつも、ずっと空がある。

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石垣りんさんの詩については、過去にもレビューしています。
よろしければあわせてお読みください。
石垣りんの「表札」の潔さ
石垣りんの『貧しい町』
石垣りんの先見性(私の前にある鍋とお釜と燃える火と)
石垣りんの「峠」


では、また。