初めて短歌を学ぶひとに

こんにちは、検索迷子です。


短歌というと、学校の授業かシニア世代の趣味といった印象がある人も多いだろう。
ときどき、俵万智さんの一首に心を動かされても、
短歌だけまとめて書籍で読もうということは少ないかもしれない。


図書館の書棚にあった一冊で、カバーイラストの楽しさから、
従来の短歌のイメージを変えてくれそうな一冊を見つけた。


歌人米川千嘉子(よねかわ・ちかこ)編著、
『親子で楽しむこども短歌教室』の本をご紹介したい。
米川さんは『ちびまる子ちゃんの暗誦百人一首』も出版されている。

親子で楽しむこども短歌教室

親子で楽しむこども短歌教室


読むと思った以上に楽しく読めて、
ターゲットをきちんと絞り込んで作られた編集者の意欲を感じる良書だなと思った。


親子の、と書名にはありますが、
親子と限定するのがもったいないくらいの本です。
たとえば、学校の授業の副読本にするとか、
大人向けの教養講座でも、短歌の初心者向けのテキストにするとか、
あるいは、大人が一人で読むにも十分、知識欲を満たしてくれる作りです。


本書は、まず短歌って何?という基本的な知識、
歴史や句や句切れ、文語や口語の説明がある。
短歌が1300年も続き、日本で一番古いのは『万葉集』とか、
古くは「和歌」と呼ばれていたとか、そういうことも思い出させてくれた。


本書全体で160首弱の短歌が紹介されており、
それらの作者一覧や作品一覧、参考図書紹介がある。
また、付録として現代語訳付き百人一首があり、合計260首近くが掲載されて、
一冊の短歌の本としての情報量がとても多く、読み応えがある。


全体的に、四季や学校生活のシーンによって、
どんな短歌の例があり、どう詠むかという演習やクイズ形式なのだが、
これも、短歌を特別に高尚なものではなく、
日常生活を詠むものとしてわかりやすいつくりになっているし、
自分でも詠めそうかなと思う動機づけになるだろう。


麦わら帽子ひとつでも、込める思いが違う


麦わら帽子といっても、最近はあまり街中でかぶっている人を見かけないが、
以前は子どもの定番アイテムだった。
今はどうか、子どもが身近にいないためわからないが、
夏の象徴そのものを表す単語として、麦わら帽子の文字にせつなさを感じる。


たまたま本書内で、麦わら帽子の短歌を3編見つけたのでご紹介する。
解説は、本書にあるものそのままの引用である。


同じものを見て、違った気持ちを表すことができる可能性の広がり、
少ない単語で思いを伝える深みを感じる。



「夏」の歌2

思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
俵万智


海や山での楽しい思い出がいっぱいにつまった麦わら帽子。思い出を大切にしたい気持ちがそのまま伝わります。

わが夏をあこがれのみが駆け去れり麦藁帽子被りて眠る
寺山修司


前の作品とは対照的ですね。期待や憧れが実現することなく、夏が終わってゆこうとしているさびしさです。


「戦争」の歌

戦争に失ひしもののひとつにてリボンの長き麦藁帽子
尾崎左永子


戦争中に青春を送った作者。失われた麦藁帽子は、自由な青春が許されなかった悔しさの象徴かもしれません。

子どもの頃、短歌はその短い文ゆえに、
字間にある情緒や思いを想像するのが難しいと思っていた。
学校教育のなかでも、作文や読書感想文など、きちんと体系立てて書くとは対極にあり、子ども時代はなかなかわかりにくいことが多かった。


作文は思ったとおりに書くといった、
全部が見える状態で書くのがよしとされるものだったため、
短歌のように、少ない言葉に凝縮して世界観が広がるように書かれたものは、
どう理解していいのか答えが見えなかった。
今思うと、答えがない、解釈に正解がないから深みが出るのだと思った。


短歌を詠みたい人が読む本としてもいいが、
短歌にあるシーンを想像できる大人になってきた、
同じ風景を見ても、同じ物を見ても、
いろんな思考があるという多様性がわかるようになった大人こそ短歌が面白いと思う。


こども短歌教室は、実は昔こどもだった大人こそ楽しめる一冊だろう。
ところで、現代に通用する、麦わら帽子みたいな共通の青春時代のアイテムって、
いったいなんでしょうね。


夏が、終わる。
麦わら帽子があろうとなかろうと。



では、また。