わが友の旅立ちの日に

こんにちは、検索迷子です。


安野光雅(あんのみつまさ)さん著・装丁・画、
『わが友の旅立ちの日に』、山川出版社刊を読了した。

わが友の旅立ちの日に

わが友の旅立ちの日に


安野さんといえば、
旅の絵本シリーズが有名だ。
たくさんあるため最新作を紹介しておきたい。

旅の絵本8 (安野光雅の絵本)

旅の絵本8 (安野光雅の絵本)


さて、本書だが、かつて出版されたものを、
改題、再編集と加筆をされたようだ。


絵ではなじみ深い安野さんだが、
文章を読んだのは初めてかもしれない。
文章の奥深さもあるが、装丁や挿絵が豪華で、
それだけでも本当に美しい一冊だ。


巻頭の10ページに渡る、
「お前はピエロ」の詩入りのモノトーンの力強いイラストは、
切り絵のように見えるが実際はどうなのだろう。


旅の絵本の彩色前のものや、
各国で描かれた風景は本当に見事だ。


わかれの歌

巻末で今まであまり見たことのない、
安野光雅さんに触れたような気がした箇所があった。
それが、薊(あざみ)の柔らかなタッチのイラストと、
そこに描かれた詩だ。


そのまま引用をさせていただく。

わかれの歌


時の流れの 悲しみを
旅立ちの日に 悟るかな
わかれに汲むや 杯に
詫びたきことの 多かりき


わが行く道に 咲くあざみ
思い出の日を 語るらん
長き黒髪 いざさらば
並木の道よ いざさらば


わかれの時は 近づきぬ
杯を乾せ わが友よ
われ等があつき 青雲の
誓いをたれに 語るべき


世の常ながら わかれては
明日からいかに 生きるべき
言いそびれたる わが思い
君を忘れじ いつまでも


あざみは、6月から8月に咲く花のようだ。
つまり、夏の別れだ。


この詩自体の解説はなかったように思うが、
杯を交わすシーンから考えると、
戦争に出征する前の友とのわかれなのだろうか。
1926年生まれの安野さんからそういう想像もしたが、
どの別れにあっても、この詩は響くものがあるだろう。


あざみの花が見開きで描かれ、
その柔らかで優しいピンクの花の色彩が、
余計に、わかれの淋しさが際立つ色に思える。


絵で表現できることの素晴らしさを、
本書で心から実感したような気がする。


では、また。