草なぎ剛さんの「スペシャリスト」の卓越した演技

こんにちは、検索迷子です。


今日は、草なぎさんの「スペシャリスト」第4回目を視聴した感想と、その周辺のことを書きたい。

じっと見つめる視線、静寂の間合いで語る演技

これまで、スペシャリストを視聴して、2回感想を書いた。
草なぎ剛さんの「スペシャリスト」の声スペシャリストの連続ドラマ初回感想)
草なぎ剛さんの静と動の役割スペシャリスト4の感想)


続けて感想を書こうと思いながら、少し回がまとまってからのほうが草なぎさんの演技の様子もわかるかと、ちょっと間を空けての感想となる。なお、私の感想の視点は、宅間義人という役柄ではなく、あくまでそれを演じる草なぎさんという見方だ。ドラマのストーリーのレビューと、草なぎさんの演技を一緒に語ると、頭の中が混乱するため、そこはあらかじめお断りしておきたい。


スペシャリスト4では、京都を舞台として外でのロケも奥行きを感じる規模で、草なぎさんが疾走するシーンが印象的なドラマだった。対して舞台を東京に移した連続ドラマは、草なぎさんの室内や車内でのやりとりが多く、その密室性によって、また新たな草なぎさんの一面が見られていると思っている。というのは、身体能力が極めて高い草なぎさんが、全身の身体能力を武器にしない演技をすることによって、気持ちの揺れやコミカルさを徹底して細かな動きで表現することになるからだ。もちろん、これまでもそういうドラマ出演もあったが、今回はさらに以下のような部分が興味深い作りとなっている。


コミカルな部分を出すために口元をきゅっと結ぶ、頬をくっと持ち上げる、首をかしげる、目を茶目っ気たっぷりに見開く、おもちゃでの手遊びの指先に感情を乗せる、もぐもぐとお菓子を食べジュースを飲む、おもちゃ好きの設定のためおもちゃメーカーに出向く時に、うきうきしたように身体を揺らす、会話のさなかに豚鼻のポーズをするなど、大人のなかにひそむ幼児性を見事に出している。


また、透明アクリルボードに絵を描くにしても今一つへたくそなのも、演技なのか本当なのかもはやグレーゾーンになっている。草なぎさんの描くイラストの独自センスは、知る人ぞ知るものだが、ここは演技の一場面として、深刻な状況のなかでもふと笑ってしまい、そこで笑わせてくれる余地があるのが面白い。こうした役柄設定は一歩間違えば、ただの甘えん坊の少年になってしまう要素をはらみつつ、そこまで行き過ぎないぎりぎりの大人の男性としての愛らしさを残した演技が魅力的に映る。


バラエティでのコントではない場面で、草なぎさんがこうした演技をすることはそれだけで目新しい。いや、コントですら見たことのない草なぎさんの新しい側面のような気がする。このドラマのなかで、草なぎさんはコミカルさという新しい人物設定のなかに生きていて、その人物を演じ切っている。ファンからすると、草なぎさんの天使のような要素は見慣れているものかもしれないが、私はこのドラマの中に、草なぎさんの天然なかわいらしさよりも、役柄として計算されたコミカルさをとても感じる。


そして、コミカルな部分と対比するかのような、真剣な場面での演技がスパイスを加えている。のらりくらりとしたトーンから一転、理論に集中して一気にまくしたてる、外部のノイズを意図的に静止させて思考する、静寂の間合いを演技する、あごをぐっと引く角度や表情筋を顔の中心に集めながら会話し、緊急の事態に対処する、同僚たちのなぜという問いかけを瞬時に遮断して有無を言わさず次の行動を命令するなど、スピード感をのんびりしたピッチから、急速に回転をあげるかのごとくコントロールする演技も見逃せない。


10年10か月冤罪で服役していた、その心に深く培われた感情表現や、犯罪への怒りを唾を飛ばしながらぶちまける姿、一見のらりくらりとした間合いのように見える、でも十分な間合いをとった疑惑を追及するシーン、巨大な謎を探り当てるためにぐっと向き合う視線の力など、静寂や闇や密室、余計な装飾や効果音がないなかで、草なぎさんの演技の迫力だけが際立つ作りになっているのも、とてもいいと思っている。

アイドルの出演作の視点を捨てて、素晴らしき作品を純粋に勧める

と、一気にまくしたてるかのように、思いついたことを書いた。観ていないかたからするとピンとこないことも多いだろうが、私は初回から連続視聴してきて、このドラマを積極的に応援したいと思っていて今日はこれを書いている。私はたまたまここしばらく、草なぎさんを話題に書くことが多いが、もともと映画や書籍などのレビューが好きで、ずっとこのブログで書いてきている。だから、レビュー一つとっても本気で勧めたいと思うものしか、わざわざ時間をとって思考を整理してまで書かない。単純に、このドラマのクオリティの高さから、もっとこのドラマが観られていいと思ったのだ。


話はそれるが、最近、草なぎ剛さんの「コップのツヨ子」の見どころ香取慎吾さんの年齢相応の演技への挑戦という記事を書いたが、これも同じような気持ちで書いた。私は常にSMAPのファンではないという立ち位置で記事を書き、エンターテインメントのプロとして表現されたものを純粋に受け取り、その感想を書こうと思っている。だから、草なぎさんや香取さんの演技を見て、かっこいいとか、かわいいとか、萌えるといったことはあまりなく、うわぁ凄いとか素晴らしいという感想で観ている。


報道でいろいろ言われている渦中ですら、彼らは目の前の仕事に集中し、未知とも思える新しい演技への挑戦をしているのだと思うと、その身をふりしぼって生み出した作品をこちらもしっかり受け止め、リスペクトしたいポイントがあるからこそ、こうして書き出している。


香取さんは一般の年齢相応の男性を演じる領域、草なぎさんはスペシャルドラマからの延長とはいえ、連続ドラマとして継続して、コメディ要素や疾走感や心の闇を演じる役割がぶれないよう、試行錯誤をしながら演じているのだと思う。そこにどんな役作りのプロセスがあろうが心痛があろうが、作品を観ている側としてはわからないし、知らなくてもいいのだと思う。


とにかくいまは、目に見える、アウトプットされたものだけで作品の評価はすべきだと思っている。彼らにとって、自分たちを個人的に心配されることよりも、きっと作品の評価で今という時間に寄り添ってもらうほうが、ずっと励みになると思っている。だからこそ、目に見える形で文章にし、視聴率という目に見える指標で世の中に、彼らのエンターテインメントのプロ性を伝えたいと思っている。彼らはアイドルの作品というくくりで、まだ作品を視聴されなかったり、面白いと思っても口に出して広めないかたもいるだろう。だからこそ、自分のブログで長文でこうして良さを伝えることにも意味があると思っている。いいものはいいし、いいと思えるポイントが多数あるのだ。

ミステリーとしての、脚本の素晴らしさ

実は、私はミステリーや刑事ものが苦手である。特に、テレビドラマは一切見ない。理由は単純で、殺人シーンが嫌いだからだ。人をナイフや銃で傷つけるシーンで、尊い一つの命が一瞬で奪われるのも嫌いだし、殺害現場や血みどろシーンも苦手だ。もっと言えば暴力シーンも苦手で、映画などでもそのシーンが終わるまで目をつぶっていたりする。怖いというより、生きていくうえで必要のない、残虐なものを目に焼き付けたくないからだ。だから、スペシャリストの第2話であった、はりつけの殺害シーンがずっと映されていたのも正直、観るのがつらかったのだが、番組として観たいということから最後まで視聴した。


でも書籍であれば映像がリアルに浮かばない分、極端に猟奇的でなければ、ミステリーを良質な作品として読むことができる。話題作でも映画は観ていないが、書籍で読んだものも少なからずある。そんななか、たまたまTwitterで、私が一時期読み漁ったミステリー作家の大御所、綾辻行人(あやつじゆきと)さんがスペシャリストの戸田山さんと親交があり、スペシャリスト第2回と3回を視聴し、脚本が高品質とほめておられるのを拝見した。これには驚いたが、スペシャリストファンのなかで脚本の素晴らしさが定評ではあったが、それ後押しをしてくれているようで本当に素敵なコメントだと思った。

綾辻行人さんのTwitterより引用

勢いでドラマ『スペシャリスト』の第2回と第3回を観る。「安楽椅子探偵」シリーズの盟友・戸田山雅司さんのオリジナル脚本なのだが、期待どおり実に高品質のミステリ。凄い。さすが戸田山さん! 第1回を見逃したのが痛恨です。


スペシャリストの脚本は、草なぎさんが演じることを前提に、あて書きされたと聞いていたが(出典があいまいなので、その発言を知っているかたは教えてください)、戸田山雅司さんは、「相棒」「科捜研の女」のほかにも、草なぎさんが出演した映画、「メッセンジャー」の脚本も書かれていることを知った。草なぎさんを全く知らないかたが書いた脚本ではなく、草なぎさんを知っているかたの脚本というのも、今回とても大きな力になっているのだと思う。単純に脚本としてのストーリー性も素晴らしいうえに、草なぎさんの良さを最大限に引き出し、さらに草なぎさんご自身がさらに演技力をステップアップするような、チャレンジ要素のある脚本であるのも素晴らしい。


いくつかの切り口で番組を紹介したが、どんな視点でもいいので、まずは視聴してみていただければと思う。懸命に世の中に何かを生み出す人を、パーソナリティとか心情だけでなく、作品で評価を残して、数字に結果がでるよう具体的に応援したい。今の私にできる、たった一つの応援のカタチ。でも、それなりに時間も使い、頭もフル回転しているから、この記事も本気の応援なのだ。


では、また。