こんにちは、検索迷子です。
文芸評論家の斎藤美奈子(さいとう・みなこ)さんの文章を読むと、
よくぞここまで書いてくれたと爽快な気分になることが多い。
しばらく雑誌の書評などしか目を通していなかったため、
書籍化されたものをまとめて読んだ。
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どれも書評集だと思っていたのだが、
ご本人の『本の本』のあとがきにかえて、によると、
この『本の本』が初の書評集ということになるらしい。
その他は、「一定の企画にもどづく企画物、コンセプトワークに近い」とのことだ。
どれか一冊というなら、文句なしに『本の本』をおすすめしたい。
この本は740ページほどで、5.5センチという分厚い本だが、副題にあるとおり、
1994年7月から2007年3月までの書評集である。
13年近い歳月の原稿、概算で600冊以上の書評として、
相当に読み応えがある。そして、一番のポイントは笑えるくらい面白い。
たとえ、知らない本でも、ふーんそういう本なのかと興味がわく。
書評だけで読み物として成立してしている本だ。
実は、読んだと先に書いたが、
ぱらぱらと眺めたというのが本当のところだ。
未読の本も多く、書名さえも知らない文芸作品が多数あった。
またいくら書評が面白くとも、
代わりに読んでくれる人がいたのだから、自分では手にしないだろうという本もある。
そういう本の読み方があってもいいのかと気軽に読める。
いずれにしても、知らない本でも書評自体を楽しめたり、
今度読んでみようかと思わせてもらったりというのは、
書評を仕事としている人ならではの筆力がなせるわざなのだと思う。
斎藤さんの書評に対する姿勢は、『本の本』のあとがきにかえての部分に、
詳しく書かれている。
書評は「予習」、すなわちバイヤーズガイドとして利用するという方が、たぶんいちばん多いでしょう。新刊書を買おうか買うまいか迷っているとき、何かおもしろい本がないかと探しているとき、新聞や雑誌の書評は、たしかに貴重な情報源といえます。
とはいうものの、書評は「予習」より「復習」のために読んだほうがおもしろい。それが私の実感です。「復習」とはすでに読み終わった本の書評を読むことです。
本を読む行為は基本的に孤独です。しかし、そこに一編の書評が加わると、世界は何倍にも膨らみます。同じ本を読んだはずなのに、あまりの受け取り方のちがいに驚いたり、その本の新しい価値を発見したり、ときには書評のおかげではじめて意味がわかったり。
そのため私は、気になった書評があったら切り抜いておき、該当する本を買ったらすぐ、見返しに貼り付けるようにしていました。で、該当の本を読み終えたら、印象が薄れないうちにもう一度、見返しに貼った書評を読む。一冊の本を読み通した後のプラスワンの「ご褒美」として、この楽しみは他に代えがたいものがあります。
もしこういってよければ、書評は「読書を立体的にする」のです。
軽快な文体や、一見、切り口が鋭くて、
えー、ここまで書くのと思うようなこともあり、
自由に書評しているように見えたのですが、それは誤解とわかりました。
ものすごく考えて、一人の著者の生み出したものに敬意を払ったり、
一行一行を丹念に読んでいたり、そのなかにあるものを掘り起こしたりしながら、
世の中にそれを伝え続けて、
膨大な本、膨大な時間、一冊の本と日々向き合っているのだなと思いました。
書評を仕事にするということの大変さと、面白さと、
書評が何を望まれているのかに応えようとする人の真摯さが見えるようでした。
今回、斎藤美奈子さんの、お父様が大学教授ということを初めて知りました。
Wikipedia - 斎藤美奈子
でも、上出のなかの書籍のどこかで(失念してしまいましたが)、
「家にある文学全集なんて読んだことがない」と書いてあったので、
育った環境が、本に囲まれていたから書評できるくらい本が読めるのだと、
知ったかぶりで言うのは、ナンセンスだなと思いました。
斎藤さんご自身が、
独自の視点で一冊ずつ本を読み、一冊ずつ信頼と評判を重ねていき、
この書評集があるのだと思いました。
夏休み期間中に読む本をを探そうと読み始めたつもりが、
この本そのものに没頭してしまいました。
いい書評に出会うと読書の楽しみが膨らみます。
そして、検索迷子では、
匿名だから何でも言えるという部分に甘んじたくないため、
あえて批判的なレビューはしないようにしているのですが、
署名入りで書評を書けるということの凄さも痛感しました。
批判したり、これってどうなのと言うことにも、
責任と勇気と、少しの遊び心とサービス精神と、
出版物への愛情と、
ビジネスだから、お金をもらっているのだから、覚悟を決めて書く、
そう思いが必要なのだなと思いました。
素人の書評とは格が違うのも、当然のことです。
では、また。