知的複眼思考法

こんにちは、検索迷子です。


SEの読書術から、ヒントをもらうというエントリーで触れた本で紹介されていた、
『知的複眼思考法−誰でも持っている創造力のスイッチ』苅谷剛彦(かりや・たけひこ)著を読んだ。

各章には、ポイントにまとめがついていて、
ここを読むだけでも、自分の頭で考えることを強める視点が高まりそうだ。


この本は、以下の章で成り立っており、
この章立てを見るだけでも、論文的な構成がしっかりして、
考えられていることがわかる。


1996年刊行の本だが、今読んでも古さを感じさせない王道の本である。
どんな表現方法を求める人にも活用できる考え方だが、
文章で表現する予定のある人のほうがすぐに使えそうだ。

序章 知的複眼思考法とは何か 
第1章 創造的読書で思考力を鍛える
第2章 考えるための作文作法
第3章 問いの立て方と展開のしかた−考える道筋としての<問い>
第4章 複眼思考を身につける


まず、複眼的思考とは何かのまえに、
その逆である、単眼思考とは常識にとらわれた考え方であるようだ。


複眼思考とは、については序章のポイントから引用する。

1 複眼思考とは、ありきたりの常識や紋切り型の考え方にとらわれずに、ものごとを考えていく方法のこと。
2 「常識」にとらわれないためには、何よりも、ステレオタイプから抜け出して、それを相対化する視点を持つことが重要。
3 知識も大切だが、「正解」がどこかにあるという発想からは複眼思考は生まれない。

知識と思考との関連付け、知っていることと考えることとを結びつけるやり方、
それが問題だとしている。


できそうで、なかなか難しい点である。



本書内で特に、私が共感をしたのは、
第3章で記載されている、以下の箇所である。

概念とはサーチライトである。


概念が思考のはたらきにとって重要なのは、ある概念が与えられることによって、それまでは見過ごされていたことがらに光が当てられるようになることにあります。アメリカの社会学者、タルコット・パーソンズは、このような概念の働きを「サーチライト」にたとえました。新しい概念は、それまで暗やみの中で見えなかったことがらに光を当てて、その存在を示すサーチライトだというわけです。

として、
ジェンダー、リストラ(リストラクチュアリング)、
セクハラ(セクシャル・ハラスメント)などの例を引き合いに出している。
確かに、その概念や言葉が広まる以前は、表現しにくいことであった。


たった一つの用語、たった一つの正しい定義、
たった一つの概念を広める機会、
こうしたことが積み重なるといつかその言葉は標準的になり、
その言葉以外で、もう、その事象を表現できなくなるくらいの力を持つ。


概念はサーチライトである。
私たちの思考を深める助けとなるよう、
単眼的思考に光を与えてくれて、複眼的思考ができるよう、
道しるべとなってくれる。


考えを深めながら読みこなす、そんな良書の一冊だ。



余談ですが、
文庫本の背表紙には、
「全国3万人の大学生が選んだ日本のベストティーチャーによる思考法の真髄!」
とあり、
苅谷さんも本書内に本書の出版のきっかけの出来事として、
ベストティーチャーに選ばれたことがあると記載があった。


ベストティーチャーって?と思って調べてみたが、
この該当する賞の詳細がわからなかった。
1996年刊行以前の出来事だろうが、
その時代の情報はインターネットでは調べにくいということなのだろう。


概念が、周知の出来事でないとき、
こうして人は混乱する、情報の正しさに手探りになるという感覚をもった。


苅谷さんご自身は実際にすばらしい教職者ですが、
何か、概念が共通認識事項にならないと、齟齬が生まれるという気持ちになった。
凄い人だよといわれても、その凄さの元となる概念を知らなければ、
概念の定義からがずれているということになるのだ。



と、概念の定義にこだわってみましたが、
そんな小さな話題よりも、本一冊が教えてくれる思考法は多い一冊だと、
最後を締めくくりたい。


誰もが持っている創造力のスイッチを入れるのは、紛れもなく自分だと、
自分との向き合いを考えさせてくれる、考えて考えて考えて、
考え尽くした先に次が見つかることを教えてくれる本だ。


では、また。