高田敏子「水のこころ」を英語で読む

こんにちは、検索迷子です。


先日、高村光太郎「道程」を英語で読む で、日本語詩を英語で読む面白さを紹介した。


今日も引き続き、同じ著書、
アーサー・ビナード著、みすず書房発行、
「日本の名詩、英語でおどる」から、
高田敏子(たかだとしこ)「水のこころ」を紹介したい。

日本の名詩、英語でおどる

日本の名詩、英語でおどる

「水のこころ」を英語で読む


高田敏子さんの詩を、意識して読んだことが実はない。
女性の詩人ということで名前を知っていた程度だ。
他の詩を見たら、ああこれがと思い出すかもしれない。


先日の、高村光太郎「道程」の思いいれとは全く逆で初見の詩である。
まっさらな気持ちで日本語詩を読み、
英訳を読み、そしてアーサー・ビナードさんのコメントを読み、
言葉の広がりを感じた一遍だった。


まずは日本語、次いで英語を紹介し、
アーサー・ビナードさんの翻訳にあたってのエピソードを紹介する。
引用はすべて、本書からである。

水のこころ
高田敏子


水は つかめません
水は すくうのです
指をぴったりつけて
そおっと 大切に―――


水は つかめません
水は つつむのです
二つの手の中に
そおっと 大切に―――


水のこころ も
人のこころ も



Water Way


You can't snatch water.
Water needs to be scooped
by fingers held together
in close accord, uplifting with care.


You can't snatch water.
Water needs to be enfolded
by two plams cupped together
in close accord, uplifting with care.


Water is that way, and so
is a person's heart.


これを訳した際のアーサー・ビナードさんのコメントが次のものである。
「こころ」をどう訳すか苦労されている様子がうかがえ、
翻訳スキルのない自分からすると、その迷いのエピソードも興味深かった。

(前略)一筋縄ではいかなかった。heartでもfeelingでも、あるいはmindを使ってみても、行き過ぎた擬人化になってしまい、最後の「人のこころも」が引き立ってこない。
てこずったまま、羽田空港行きのモノレールに乗って、車窓から京浜運河勝島運河を眺めていたら閃いた。「水路」のことを英語でwaterwayというが、そのwayこそが「流儀」、「方向」というか「ありよう」で、つまり「こころ」なのではないか。
もうひとつ、前々から訳したいと思っている「こころ」がある。日本語のなぞなぞ遊びでいう「そのこころは?」だ。でも今のところ、まだWhat does it mean?しか見つかっていない。


この詩は、最後の一行、人のこころがつかめない、
ということを際立たせるために、水のこころをつかむ、
というとらえきれないものを最初に持ってきている。


水だもの、液体はつかめないでしょう、
でも、もし水をつかむならどれくらい慎重になるのかと、
自分のなかで水をつかむイメージができて、
つかみにくいものをつかむ心の準備ができて、
最後に、すっと「人のこころ」を差し出された。


時に、人のこころはつかめるものだと勘違いしてしまう。
つかめない、つかみどころがないとき、
いらだったり、相手を責めるような気持ちになる。


でも、そんなのはナンセンスなのだ。
人のこころも、つかめないものなのだ。
水とおなじようにとらえにくいものなのだ。
そんな、当たり前のようで、わかっていなかったことを、
この詩はすっと差し出す。


本書を読んでいてわかったが、
英語力がないと、どうしても短めの詩に目がいく。
平易な単語、リズム感でないと、
初見の詩はとくにつらい。


日本語の解釈やリズム感、英語に置換したときの違いや類似点など、
詩を読む軸が定まらず、二重に感情移入がしにくい。
だからなのか、短い詩、日本語でもすんなり入ってくるこの一遍は、
とても読みやすく、英語になったときさほど違和感がなかった。


語学学習のように頭で理解するのではなく、
リズム感と単語選びが、
詩の翻訳されたものを楽しむポイントなのだなとわかった。


日本語と英語で同じ詩がどうなるか比べるのは新鮮で、
もう少し、本書を読み進めてみようと思う。



水のこころも、人のこころもつかめない。
でも、そおっと大切につつもうとすれば、
ほんの少しでもすくえるかもしれない。


つかめないものだからこそ、つかみたい。
つかまないでいいと言えるほど、
一人では生きられないから努力をする。


水のように、人のこころもつかめないものなのだ。
そこが原点になることで、人ともっと大切に接していこうと思える。


そおっと 大切に。
だって、それはこころだから。


そおっと 大切に。


では、また。