どっちが大事と聞かれたら

こんにちは、検索迷子です。


弁護士の谷原誠さんの、
『図解「わたしと仕事、どっちが大事?」はなぜ間違いか』を読んだ。

図解 「わたしと仕事、どっちが大事?」はなぜ間違いか 弁護士が教える論理的な話し方実践編

図解 「わたしと仕事、どっちが大事?」はなぜ間違いか 弁護士が教える論理的な話し方実践編

これは同じく谷原さんの『「わたしと仕事、どっちが大事?」はなぜ間違いか』を、
よりわかりやすく図解した内容となっている。


以前、『弁護士が教える気弱なあなたの交渉術』を読み、気弱な人の交渉術
エントリーを書いた。
このときに、交渉ごとって特別なものではなく、
むしろ日常のいたるところで活用できるのだと思って関心を持った。


感情的な議論を、いかに理性的に論理的にする、というと何か、
それだけで堅苦しい印象を受けるが、
言い回し一つ、話の展開のさせかた一つで状況が変化するというのは、
なかなか普段意識してこなかったような気がする。


私と仕事、どっちが大事か


本書のタイトルにあるこの言葉、
どう答えればいいかが明確な事例として出されている。
これだけ読むと恋愛のかけひきみたいなタイトルだが、
ここで問題としているのは、異質なものの同士は比較できないということだ。


こうした異質な二つの選択肢、二者択一すべきでないものを取り上げて、
選ばせる質問を、「二者択一誤導尋問」というようだ。
誤導尋問とは、ある前提を設定したうえで、相手をその前提に誘導してしまう
テクニックらしい。


ちなみに、どっちが大事と比較できないもの同士を聞かれたら、
どっちも大事だと答えてから、相手の感情を理性に転換できるよう、
心に訴えていくのがいいようである。
つまりあなたが大事に決まっていると答え、
さらに仕事を大事にする自分の気持ちを冷静に考えてくれるように、
相手の心を落ち着かせていくということだ。

論理的な話し方のテクニック


本書内で、弁護士が使う論理的な話し方のテクニックが
コンパクトに図解されている箇所があり、ここを知っているだけでも、
随分と頭が整理されそうと思った箇所があるので引用する。
(実際は図解です)

弁護士が使う論理的な話し方のテクニック


三段論法
AならばB → BならばC → ゆえにAならばB
・反撃するときには「ならば」を疑ってみること


そもそも式論法
そもそも(ルール) → ところで(事実) だとするならば(結論)
・まず常識・ルールを認めさせることで、結論を認めざるを得なくさせる


原則と例外
原則としては○○だ → ただし例外的な場合もある → その要件は××である


公知の事実(常識でわざわざ説明するまでもないこと)
なぜ? → 回答 → 回答 → なぜ? → 公知の事実 → なぜ? → 逆に質問する
・「なぜなぜ攻撃」を仕掛けられた場合は、「公知の事実」のところで切り返す


争点整理
何が問題なのかを整理しよう
・議論が混乱した場合は方向性を確認する


門前払い
毎日飲みすぎの人
「あなたは軽度のアルコール依存症だと思う。これが生産性を下げていると思う。アルコールをやめるべきだ。」
↑そういうあなたはどうなの?


異同論法
AとBとこれらの点で同じである → したがってXという結論になる
   ↑↓議論
AとBとこれらの点で異なる   → したがってYという結論になる


言葉の定義
国が豊かになって貧乏な人がいなくなった ⇔ いやいや、格差社会で大半の人が貧乏だよ
・「貧乏」とはどれくらいの所得か? 定義づけが必要


帰納法演繹法
個々の事実  → 一般的な原理 =帰納法
普遍的な法則 → 特定の事実  =演繹法

・この二つの使い分けの例
「神様を信じた人はみんな救われた。だから神様は存在する」が帰納法
「神様は存在する。だから神様を信じた人はみんな救われる」が演繹法

自尊心を傷つけない議論


議論はよりよい結果を生み出すための手段、というところで、
妙に納得できた説明があった。

人は、自分が論理的でありたいと思うがゆえに、議論で負けて納得させられることに耐えられません。論理は頭脳の働きそのものであり、論理的思考が優れている者は頭脳が優れていると誰もが思っているからです。議論に負けると、頭が悪いことを証明されたような気持ちになり、自尊心を傷つけられてしまうのです。

確かに、物事の本質よりも、言いくるめられたとか同意を強制されたみたいな、
負けた気持ちになってしまうことは思い当たる。


感情で動く人間を議論で説得できないと言われるものの、
説得可能なケースもあるようだ。

1.相手がその分野で自分より優れていることをすでに受け入れている場合
例として、一般人と弁護士


2.相手が自分より能力が優れていることをすでに受け入れている場合
優秀な相手だと競争相手の認識がない


3.議論になっている対象に、ほとんど興味がない場合
議論に負けてもたいしたことでないと自尊心が傷つくのを妨げる

議論で使えそうなフレーズ


議論の具体的な会話の例が挙げられ、解説されている。
どの状況もよくありそうなものだ。
そのワンフレーズを知っているだけでも、
話の流れが変えられそうなためこれも引用しておく。

論理的な会話術


1.そもそもの前提が間違っているよ
2.それってすり替えでしょ
3.例外もあるよ
4.なんでその理由でそういう結論になるの?
5.その二者択一、おかしくない?
6.そのたとえ、適切じゃないでしょ
7.そうだけど、何か問題でも?
8.なんで私が説明しないといけないの?
9.今はこの話をしようよ
10.人の話をちゃんと聞きなさい

議論には、そのもととなる「前提」を大切にしないと、
いろいろずれるものだなと思う。


立証責任とは


本書を読んでいて、議論って説明しあうことの応酬だとあらためて気づいた。
それが、「立証責任」という言葉でしっくりいった。
誰かに何かを聞かれたら、その理由を答える、立証しなければならなくなる、
その責任を負わされるということだ。

立証責任とは?


AがBであることを主張するには

AがBであることを立証しなければならない


議論のなかで立証責任を負うと

追及を受けることになり不利になる


立証責任は、その事実の存在を主張する者が負うというのが原則のようです。

お互いが何かを主張しているような状況では、現状を変更する側が立証責任を負担するのが原則です。
刑事裁判では、検察官が立証責任を負担します。
それは、被告の現状を国家という絶対的な力が変えようとするため、国家が有罪を立証すべきであるという考え方に基づいているためです。


内容が一見難しく見えますが、
たとえば、自分が答えたくないようなことは、
相手になぜそう思うかを聞いてしまうといった対処ができるようです。
聞かれてしまうと答えなければ、という気持ちになりますが、
逆になぜそう聞くのかを聞けば相手が立証責任を負うことになります。



本書で書かれているテクニックを一つでも実際の場で言えると、
何か、もつれかけた会話がすっきりとなりそうな期待があります。
もちろん、唐突に切り返すと角も立つでしょうから、
話し方に気をつけないといけない面もありそうです。


谷原さんが再三書いているように、
議論はよりよい結論に導く手段なのですね。
ものごとをまとめるのがうまい人ほど、
こうやって話の流れをスムーズに整理しながら、
本質から外れないで結論を導き出せているのでしょうね。


自分ができそうなことといえば、
せいぜい間違った二択に乗っからないように気をつける、
ということからかな。
感情的な質問をしないことも、かわすことも大変そうですね。


では、また。