ワインバーグの本を読む(1)

こんにちは、検索迷子です。


ジェラルド・M・ワインバーグの本は、
ソフトウェア開発やシステム関連の仕事に就いている方から評判がよく、
かねてから気になっていた。
Wikipedia - ジェラルド(ジェリー)・ワインバーグ (Gerald Marvin Weinberg ('Jerry')


ワインバーグの本は、
エンジニアでないと読んでも理解できないだろうかと思っていたが、それは誤解だった。
どんな仕事に就いていても、どんな立場でも参考にできる要素が多い。


ワインバーグの本を何冊か読んだので、数回に分けてご紹介します。
今日は、『ライト、ついてますか −問題発見の人間学』です。
こちらは、ドナルド・C・ゴースとの共著である。

ライト、ついてますか―問題発見の人間学

ライト、ついてますか―問題発見の人間学


特に、ユーザビリティを考える仕事をする人には、ぜひ読んでもらいたい。
Webサイトであればなおのこと、
他のものであっても、誰かに使ってもらうあらゆる物づくりをしている人には、
いろんなメッセージやヒントがあると思う。


ワインバーグを読もうと思ったきっかけは、
克元亮さんの『SEの文章術【第二版】』で紹介されていたなかに、
ライト、ついてますか』があったことだ。

SEの文章術 【第二版】 (技評SE選書)

SEの文章術 【第二版】 (技評SE選書)


克元さんのこの著書に掲載された本は何冊も影響を受けて、読了してきた。
その一覧については過去のエントリーで紹介しています。


また、そのなかのもう一冊にあった『SEの読書術』に掲載されていた方が、
同じく『ライト、ついてますか』を紹介していたことも記憶にあった。
そのときには、『SEの読書術』の感想しか書かなかったが、ワインバーグは絶対に読もうと思っていた。
そのなかで、
システム開発をするなら、ワインバーグくらい読まないとだめだよ」といった発言をされていた。
それで、ワインバーグはずっと気になっていた。


ワインバーグの言葉は、思考を深めてくれる、
プロセスを分解して、段階を飛ばさずに正攻法でひとつずつ考えさせてくれる、
本質は何かと問いかけを大切にするなど、
どれも、具体的に実行できそうなことが多い。また著者の体験による厚みがある。


ただもしかしたら、ビジネス書に慣れている人は、少し読みにくいかもしれない。
文章を読みながら、で、何が答えなのかとか、
もっと具体的にとつっこみたい部分もあるかもしれない。


それは、若干シニカルでウィットにとんだ文体や、ジョークや遠まわしな言い方など、
日本人として理解できないことやわかりにくい部分もある。
また、説明のための文章がこってりしたトーンで書き込まれていたり、
長文のなかに真意があったりするところは読みにくいかもしれない。


ただ、その文章は順を追って読めば無駄はなく、読みながら考えていけるものだ。
長文のなかに、ワインバーグがその考えを導き出すにいたった経緯がわかるのだ。
プロセスを飛ばさないで考えることが大切だとつくづく思わされる。


なんとなく、エンジニアとかシステムに従事する人が、
ワインバーグを好きな理由がわかるようにも思えてくる。
ワインバーグはコードの書き方とか、具体的なプロジェクトの進め方を、
チェックリストのように書いているわけではない。


「哲学がある開発をする」とでもいうのか、自分なりの思考の道筋を持って、
仕事に臨むことの大切なものを教えてくれるような気がする。
要件定義を行い、依頼者の要望を整理し、問題点を明らかにし、
依頼にこたえられるものを作り、システムに反映させて、
問題を解決に導く、それを実現していくものを作る、
その骨格となりそうな思考を持つように、促されているような文章が多い。


気づきとなる言葉の投げかけや、そうだよなという共感がしやすいものも多い。
読んでおくことで、じわじわと活きてくる思想を、自分に蓄えるという本なのだと思う。


ライト、ついてますか? −問題発見の人間学

さて、本題である書籍についての感想を書きます。


本書は、問題発見にあたり、読み違えをしない、ミスリードをしない、
思い込まないことの大切さを教えてくれる。


進もうとする道が本当にそれでいいのかと「待った」をかけてくれる、
多角的な検討をしたか、利害関係者は誰かを洗い出したかなど、
物事を一方的なわかりやすい面からだけ判断しないことの重要性がわかる。


やみくもにただ急いで行動して、本人は動いている気になっているつもりが、
本質を見極めなければ遠回りをしてしまい、やり直しになることもある。
こっけいなほどに違ったことに慌てたり、急いでいたりすることもある、
動く前にしっかり考える、正しい進む道を考えてから行動しなければ損失は大きく、
ただ急げばいいだけではないと、ほどよいブレーキをかけてくれる。


本書の構成は、次のとおり。
特に印象が残ったところは、章タイトルだけでなく項目も入れた。

第1部 何が問題か?
    1.問題
      問題は何なのか?
      問題を抱えているのは誰か?
      キミの問題の本質は何か?
第2部 問題は何なのか?
第3部 問題は本当のところ何か?
第4部 それは誰の問題か?
    11.煙が目にしみる
    12.構内は車で一杯
    13.トンネルのかなたのあかり
       それは誰の問題か?
       もし人々の頭の中のライトがついているなら、
       ちょっと思い出させてやるほうが、ごちゃごちゃいうより有効なのだ。 
第5部 それはどこからきたのか?
第6部 われわれはそれをほんとうに解きたいのか?


書名となった『ライト、ついてますか』のエピソードは、4部13.の箇所である。
簡単にその話を要約すると、
トンネルを通る前にライトをつけない人がいて危険なため、ライトをつけるよう標識を出した。
そして、ライトをつける人が増えていったんは問題解決をしたかに見えた。
ところが、今度はライトをつけっぱなしにしたまま目的地で数時間を過ごし、
帰路でバッテリーが上がる人が続出してしまった。
標識に促されるままライトをつけたことで、
行きの事故防止にはなったが、別の災難を引き起こしたということだ。


そこで、往路復路ともに有効な標識文面を考えたら、
標識としてはありえないくらい、もしこうだったらライトをつけろ、
もしこうだったらライトを消せといった長文になってしまった。
それで、行き着いた結論が、「ライト、ついてますか」それだけでいいということだった。


ライトがついていない人はライトをつければいいし、
ライトがついたままの人はライトを消せばいい。
この瞬時にしてわかる文面で問題は解決し、
さらに短文になったおかげで、他言語表示対応も可能になったということだ。


という解釈を私はした。
たぶんあっていると思うが他の人はどう読んだのだろう?
実際にはここまでは説明されておらず、事例として数ページにコンパクトに書いてある。


こうした事例ひとつで、思考のヒントをもらう。
自分の思い込みや、本質を見抜く力の深さを知ることができるのだと思う。
何かが解決しても、他の何かを誘発してしまうことは、本質を見ていないということなのだ。


また、この文面ひとつとっても、
ただ丁寧であればいいというわけではない、ということも気づかされる。
たとえば標識のように一瞬で判断できるには簡易な一言でなければ、
走行中の車の運転者には適切ではない、
標識を読むあまりに事故を引き起こす危険な警告となったりする。


ライト、ついてますかをWebサイトのナビゲーションに応用する


本書にあるように、
本質を間違えない、誰のために作るかということを間違えないということは、
Webサイトのナビゲーションを考えるにしても、とても重要な考えだ。
リンクの文字列が数文字しかないとき、たった一言でわかるようにできているかの好例といえよう。


速やかに誘導するためには、
作り手の導く導線と、利用者の動く動線を考え尽くして、
適切な文面を編み出すということなのだと思う。


ライト、ついてますか
この一言で、複数の行動を促していけるなんてすごいなと思う。
見習いたい一文である。


ただ、あえて言うなら、
私はこの書名を見てずっと、違う意味にとらえていた。
ライト、ついてますか
という問いがあいまいすぎて、間違えやすいという悪例だと思っていた。


ライト、着いていますか(ライトはあなたの乗り物に装着されていますか?)
ライト、点いていますか(あなたのライトは点灯していますか?)
という2語を思い浮かべるから、もっと丁寧に質問しなさいという意味だとばかり、
てっきり思い込んでいた。


ライト、ついてますか
その一言だけで、これほどまでいろいろ考えられるということですね。
実際は、英語で書かれた話なので、日本語の音声的なこういう間違いはおきないかもしれませんが。
翻訳するということも難しいなと思いました。


なお、本書は1987年初版で著者プロフィールがないため、
ワインバーグの経歴を知りたい方は他の書籍もあわせて読むといいでしょう。
私も、あと数冊ワインバーグの本は取り上げる予定ですので、
よければそちらもご参照ください。


では、また。