サービス利用者をどう呼びますか?


こんにちは。検索迷子です。


今日のお話は、
インターネットサービスの作り手は、
利用者をどう呼んで、どんな気持ちを込めているかという話、
です。


ある日、ユーザーと言ってはいけないとお達しが。


私は、インターネットサービスの作り手になる以前から今まで、
情報を処理する仕事をしています。


情報を集めて、それを加工して発信する役割が多いため、
エンドユーザーの方の顔が見える直接的な接点をもったことがありません。
つまり、自分が提供するサービスの実際の使い手に会ったことがないのです。


最初に勤務していた会社では、お客様とはかなり距離があったため、
ユーザーとか、利用者、クライアントと社内で言っていた記憶があります。


そして、IT企業に勤務しだしたころ、
あるとき社長が全社員のミーティングで切り出したことがありました。



それは、
利用者をユーザーと言うのをやめるように、
ということでした。


一体、社長は何を言っているのかと、場が静まり返りました。
ユーザーじゃないって、じゃあ、何?と。
今までユーザーって、自分も言ってたよね?と。


社長は続けて、
ユーザーではなく、これからは、お客様と呼ぶようにと言いました。


このときの細かい話はもう覚えていないのですが、
若手の働き手が多いインターネット企業の社員が、
一般の大企業と同等の大人の会社として認知されて、成長するには、
まずは、お客様をお客様だと認識することだ、ということでした。


そのためには、ユーザーという上目線の呼び方をしていてはいけない、
自分たちがインターネットサービスを作ってやってるんだという、
驕りを捨てなければいけない、
心を込めてお客様と呼ぶ、低姿勢さをもたなければならない、
お客様から学ぶ気持ちをもたなければならない、
といった話だったと思います。


たかが呼び方、されど呼び方ということでした。
この話の後、社内の反応は二分化が進みました。


裸足にジーンズ、名刺交換もしたことがない人がこれをどう受け止めたか。


私がいたインターネット企業は、中途入社者が大半だったこともあり、
ビジネスマナーに関してはとてもゆるい会社でした。


歴史ある大企業なら、電話応対も、名刺交換も、接客も、
新人研修や内定者研修で、社会人としての当然の基礎教育が行われるものが、
新入社員の採用をしていない時代だったためトレーニングの場がなく、
いっさい出来ない人もかなりいました。


その会社の入社以前の会社で受けた教育の差が、個人ごとに激しく出ていました。
来客時に、名刺をお尻のポケットにいれて、雪駄履きで会議室にいく人もいました。
でも、いい仕事を生み出すスキルはあり、会社としてもそれを気にしていませんでした。


そんななかで、いきなりの「お客様」と言いましょうといわれても、
受け入れる土台がない人もいたのです。


そして、お客様をどう呼ぶようになったか。


まず、まったく以前と変わらない層がいました。
客、ユーザー、利用者という従来の呼び方を押し通し、
ミーティングで上司がいるときだけは、お客がと、かろうじて「お」をつける人たち。
その人たちは、客に会わないんだから、なんで丁寧に呼ばなくちゃならないの、
からしいと言っていました。


逆に、確かに社長が言うとおりだと素直に受け入れた層もいました。
お客様と言う努力を始めた人、
または、「様」があまりに丁寧すぎて慣れないため、
「お客さん」と照れながら口に出すようになった人たちでした。
この人たちは、お客様に会ったことはないけれど、
お客様にサービスを提供しているという気持ちを、言葉にしようとし始めていました。


私は、後者でした。
その話を聞いたとき、私は働き始めて一度もお客様に会ったことがないけど、
他の接客業についている知人は、お客様とか、お客さんと確かに呼んでる、
自分たちだけが、ユーザーって言ってるのは恥ずかしいかもと思ったのです。


でも、実際に言おうと思っても、当初は、
「お客様」という言い方は丁寧すぎて、社内で使うには恥ずかしく感じられて、
最初はなかなか言えませんでした。
お客さ、、、んが、あ、えーと間違えた、お客様が、、
といったしどろもどろさでした。


それでも、私がいたプロジェクトは、ごく自然にメンバーが、
最初はたどたどしくても、「お客様」と口に出すようになりました。


これは今にして思うに、社内でほぼ初めてともいえる、
Web2.0的なサービスを立ち上げ、お客様の反応が近いサービスだった、
ということも影響していたと思います。
会ったことはない方たちだけど、日々反応が見えているサービスでした。


不思議なことに、皆で「お客様」の連呼を、
照れながらも続けているうちに、だんだんと呼び方がなじんできました。


初めは嫌がっていた人も、真似をするようになりました。
いつしか、
プロジェクトのミーティングで、
客がとか、ユーザーがという人がいなくなっていきました。


お客様と呼ぶと、心を込めてサービスを作ろうという気持ちに変わる。


そして私は、その会社を退職してから何年も経過した現在でも、
今でもお客様と言い続けています。
お客様に会わない仕事にも関わらず、他の呼び方だとしっくりこなくなりました。


この経験はとても不思議なものです。
ユーザーがとか、客が、利用者がというと、
言葉の響きとしても、突き放した感じがします。


否定的な言葉を次に言うときの、枕詞のようにも聞こえるようになりました。
ユーザーがさー、こんなこと言ってきやがった、
ユーザーが間違ってるんじゃないの、
といった、ネガティブさを感じるようになりました。


ところが、
お客さんがというと、少しやさしい気持ちになります。
ユーザーさんというだけでも違うかもしれません。
さんをつけるだけで随分と、気持ちがお客様に近くなります。


そしてさらに、
お客様がというと、とても心がこもり、低姿勢になり、
そのあとに、否定語やネガティブなことは逆に続けにくくなります。
お客様の気持ちに寄り添おう、お客様から学ぼうという気持ちになってきます。
お客様のためにこの機能をどうしたら使いやすくできるか、
といった建設的な発言に結びつくような気がします。


私が携わったインターネットサービスは、
お客様による不適切な行動を、監視しなければならないものでした。
正直なところ、
この客なんとかしてくれ、といった毒を吐きたい気持ちもありました。


でも、お客様がと言うようになってからは、
このお客様の行動を変えるためには、他のお客様を不快にさせないためには、
どうしたらいいのだろうと思考回路までが変わってきたのです。


お客様への責め口調や文句ではなく、
自分たちがお客様にしなければならないことを、次第に考えるようになりました。


お客様、と想像上の利用者に心で語りかけるとき、
私はお客様の気持ちに寄り添っている心理状況の自分がわかります。


対面で会ったことがなくても、
お客様、
このワンフレーズで心のありようが変化します。
何が望まれているのかを、最大限に考え、喜んでいただこうと考えるようになります。



社長がお客様と呼ぶようにといった後、
お客様を言い続けた人、
相変わらず客と呼び続ける人、
それはさまざまでしたが、私自身は、
その提案をきっかけに、お客様と呼ぶようになって良かったと思っています。


検索迷子では、ときどき、お客様という言葉を使っていませんが、
それは書き文字なので使い分けをしています。
話し言葉としては、一貫してお客様としか今はもう言わないですね。


初めて私から「お客様」という、一見丁寧すぎる言い方を聞く人は、
初め、え?という表情をします。
でも、何度も「お客様にとって必要なことは何々で」という話をしているうちに、
強制をしていないのに、
いつしか私の真似をして、お客様がと、年下の人たちが言い出すようになってくれます。


お客様という呼び方を、本人がごく自然に口から出るようになっているとき、
その人は飛躍的に仕事に対する取り組み方や、視点の変化が目に見えています。


呼び方一つで、お客様が求めるものを考え抜く力が変わる、
私にとっては、不思議な言葉の一つです。


ちなみに、客が、という呼び方をする人でも、仕事ができる方はたくさんいます。
客がと呼ぶ人を否定はしていません。


今日書いた話は、お客様を思う心を呼び方から変えてみた、
そして、それで変わった人を何人も見てきたという、一例に過ぎません。
もしよかったら、お試しください。



では、明日。またここで。


検索迷子