未来の検索キーワードを仕込む仕事


こんにちは。検索迷子です。


今日のお話は、
インターネットの検索で探しにくいキーワードを、
使われる未来を想像して仕込む仕事という話、
です。


裁判員制度、この単語はいつから登場したか。


今年の5月21日、裁判員制度が始まりました。
8月3日から行われている初公判に関するニュースで、ご存知のかたも多いでしょう。

http://www.saibanin.courts.go.jp/
最高裁判所裁判員制度〜平成21年5月21日スタート!!〜


私は、法律に明るくありませんし、ニュースに関するうんちくは語れません。
でも、この「裁判員制度」にはとても思い入れがあります。
今日この話題を取り上げるのは、
自分がインターネットサービス提供者だったころの仕事に関係しているからです。


私は以前、自分が関わるサービスに、検索キーワードを仕込む仕事をしていました。
つまり、そのサービス内で検索される単語や、検索される要素を先取りして、
どんな言葉が使われるかを推測して、
検索機能を使ったとき、お客様が情報に確実にヒットできるようにする、ということです。


ある検索キーワードで探して情報がなかったとき、
お探しのページは見つかりませんでした、というサービス側が提供する、
そっけないメッセージ画面が出てきます。


このメッセージほど、お客様をがっかりさせる画面はなく、
検索迷子を作りたくないと思って私は仕事をしていました。
私にとって、最も見せたくない画面でした。
でも、実態は皮肉なことに頻繁に出る画面でした。



その検索機能には、過去に検索された単語や、
リンク情報を巡回する仕組みもありましたが、最後は人が地道に機能強化をしていました。
閲覧履歴から過去の単語を分析したり、
現在の流行から今、話題になっている検索単語を補充したりしていました。


でも、検索というのは、過去や現在には対応できても、
未来これがキーワードとして使われるだろう単語に弱いものです。


裁判員制度もそんな用語の1つでした。
私は当時、日本経済新聞の全紙面を赤ペンを持ちながら、
毎日ひたすら未知なキーワードをチェックしていました。
なぜ、日経新聞だったかというと、電車のなかのサラリーマンが読む新聞といえば、
当時圧倒的に日経新聞だったからです。


丸囲みをした未知なキーワードは、徹底的に検索をして、
どれくらい使われている用語かを確認していました。
そういう、キーワード探しの作業を続けているときに出会ったのが、
この「裁判員制度の開始」に関する小さなニュース記事でした。


そのころ、2009年なんてずーっと先のことだと思っていました。
裁判員制度に関するサイトもごく限られていて、
キーワードとして仕込むのもどうかという段階でした。
それでも当時すぐに仕込んで、いつか来る爆発的な検索をされる時期に備えました。


エンタメだけに、人が集まるインターネットにはしたくなかった。


当時のインターネットは、法律関連やビジネスで使える話題が、
とても手薄な検索結果で、裁判員制度に関する情報もまだごく少数でした。


その時の私見ですが、理由はいくつか考えられます。

  1. インターネット利用者層の偏り。
    1. インターネットのサイトが圧倒的に流行を追うエンタメが多く、閲覧者も多かった。
    2. 楽しむコンテンツは数が増えていたが、生活に根付いたサイトは少なかった。
  2. 情報提供者層の不足や偏り。
    1. 法規制といった硬い話題のサイトが少なく、提供者も限られていた。そのため露出も少なかった。
    2. 学術利用かエンタメかといった二極化のなかで、「難しい話題を易しく解説する」橋渡し層が不足。
  3. インターネット上の信頼性の問題。
    1. コンテンツの質がまだまだ疑問視がされていた。
    2. インターネットで調べる行動が、現在よりも軽視されており情報の信頼性も低いとされていた。
  4. サービスの作り手の偏り。
    1. インターネット企業の多くは、若手社員が多く、楽しむコンテンツを充実させることが優先された。
    2. 過去と未来よりも、現在のニーズに集中特化したサービスから発展していった。


といったことが、当時、考えられました。
きちんと分析してきたことがなく、今、思い出しながら羅列しているので、
恐ろしく独善的だとは思いますが、それは過去のことなのでお許しください。


大人世代が使えるインターネットサービスでありたい。


私は、インターネットが若い人たちだけが楽しむものとなっていることが、
とても気になっていました。
それだけでいいのかと思っていました。
インターネットで、人々はエンタメや面白い話題だけを知りたいんだろうかと、
つねづね疑問を持っていました。


せめて、大人やビジネスパーソンが使えるインターネットを目指して、
経済記事や、法律関連など、詳しくはないけれど背伸びをしながらキーワードを探して、
仕込むということを自分はやろうと思いました。


インターネットを楽しむために、工夫をしてくれる人はたくさんいました。
たとえば、中川翔子さんが話題になり始めた頃は、
同僚は「しょこたんネタ」をわいわい探しているといった雰囲気でした。
それはとても大切な仕事でしたが、全員で取り掛かるには少し違うような気がしていました。
なので、私は、「すきま用語」を探して仕込もうと思いました。


私は、こういう法律関連用語や、
硬い話題から派生する言葉こそ、自分が未来のいつか、
必要となって検索する日がくるだろうと思っていました。
10年後に自分が検索するだろう思える、
時代に左右されない、未来に必ず使うキーワードを仕込もうと思っていました。


そしてその結果、
私が関わったサービスでは、「裁判員制度」で検索をすると、
数年前から検索結果の表示がされていました。
今でもそれが、実際に使われていると思うと感慨深い思いでいっぱいです。
あのとき、このキーワードに着目しておいて良かったと思いました。


私に先見の明があるとかではなく、
インターネットをどう使う道具と考えるか、その当時から、
人によって違っていたのだなと思います。


私は、最強の調べものツール、
生活必需品として暮らしに根付くものとしてとらえていたため、
未来に役立つものを目指した仕事をしていました。
他の方たちを否定する気は全くありませんので、誤解されませんように。


方向が違っても一人ひとりが、
未来のインターネットに貢献してきたことに変わりないと思っています。
裁判員制度」だから高尚ということではなく、
しょこたん」=「中川翔子」さん、と出てきて嬉しい人は多いからです。
どちらが重要ということではなく、
お客様にとっては、どちらも大事なのです。



以前、インターネットは生活必需品かというエントリーを書きました。

http://d.hatena.ne.jp/kensakumaigo/20090706#tb
検索迷子−インターネットは生活必需品か


私が、インターネットは生活必需品かを考え始めたのは、
この当時の検索キーワードを仕込む仕事のなかで、
実際のニーズとのズレを体感してきたからでした。


若年層だけを見ていたら、楽しいことしかできない場になってしまう、
インターネットは、いつまでも情報として使えないと言われつづけてしまう、
だから、こつこつと、暮らしに必要な検索キーワードを仕込もうと思っていました。


今ならもっと、システマチックにできるのでしょうが、
当時はそれが最大限にできることでした。
過去の自分の仕事が見えて、インターネットのサービスを作ることは、
本当に面白いなと思います。



では、明日。またここで。


検索迷子