『起終点駅 ターミナル』試写会レビュー

こんにちは、検索迷子です。


先日、『起終点駅 ターミナル』の試写会を観てきた。
映画『起終点駅 ターミナル』公式サイト


11月7日公開のため、早くレビューをしたいと思いつつ、
先送りになってしまった。
長めに感想を書くことになるが、一番下にURLを貼った、
7日23時59分までの公式ページの限定公開映像もあるため、
それを観てから、
私のレビューを読んでいただくのもいいかもしれません。


直木賞作家である桜木紫乃(さくらぎ・しの)さん原作作品で、
桜木さんは、出身地である北海道釧路市のラブホテルを舞台にした、
ホテルローヤル』で直木賞を受賞されている。
そして、本作『起終点駅 ターミナル』もまた、
釧路を舞台にした作品だ。
篠原哲雄(しのはら・てつお)監督によるもので、
今年開催された第28回東京国際映画祭で、
クロージング作品に選ばれた作品だ。

起終点駅(ターミナル)

起終点駅(ターミナル)

ホテルローヤル

ホテルローヤル


本作を観終えて、
主演の佐藤浩市(さとう・こういち)さんの演技の
素晴らしさに余韻が残り、
でも、その分、なぜこんなにも過去に縛られ、
一人の女性に縛られ、
そこから自分を解き放てないのだろうという、
不思議な思いが漂う作品だった。


時は昭和63年。
学生時代、自分を鼓舞してくれる存在の、
同棲していた女性が、
司法試験の合格発表日に荷物ごと消息を絶った。
一枚の「闘え!」というメモと、
一本のお祝いのモンブランの万年筆だけを残して。


そして、そのモンブランの万年筆を使い続ける彼がいた。
単身赴任先の旭川裁判所で、
被告人として、結婚して姓が変わった、
尾野真千子(おの・まちこ)さん演じる彼女との再会に驚愕し、
月に1度、女性のもとに再び通う日々が続く。
10年の空白の月日を埋めるごとく逢瀬を重ね、
単身赴任期間が終わるとき、
妻子と別れて彼女と歩む決意を伝える。


でも、その一緒に旅立つ日の雪の降りしきる駅のホームから、
彼女は、目の前で列車に飛び込む。
レール上でバラバラになった彼女に恐れおののき、
保身のために彼はその場を立ち去る。


それから25年後の平成26年
過去の自分を責め苦とするかのように、
東京に戻ることをやめ、妻子とも別れ、
釧路で国選弁護人の道を選び、子供の大学卒業まで
養育費の仕送りを続け、それも今はとっくに終わっている。
仕事場と自宅の往復の単調な日々。
趣味と言えば、新聞の料理欄を切り抜きして、
それを見ながら作る料理。


そんななか、本田翼(ほんだ・つばさ)さん演じる若い女性と出会い、
過去の彼女と「たった一本の塗りかけの赤いネイル」という
共通項だけで何か心を揺さぶられ、
身内と疎遠となった彼女と心を通わせ、
一人立ちする過程を押しつけがましくない程度にサポートする。


長いこと人に心を閉ざしたままの彼もまた、
若い女性と心を通い合わせるなかで変化をしていく。
そんなとき、4歳のときに別れた以来の息子から、
結婚式に出席してほしいという便りを前にして、
気持ちが揺れ動く。


と、あらすじを書こうとしているわけではないのだが、
この映画は、なにかをあきらめて生きているという、
枯れた空気が漂っている。
こうして記憶をたどって書き起こしているだけで、
何か、現代ではないような錯覚におちいる。
いまという時代まで時は追いついているのに、
映画のなかの空気感は昭和のままなのだ。
なにか、そこが余計に心の底に響いてくる。


なぜこうなんだろうと思った疑問は、解かれないまま進み、
なぞのまま終わる。
たとえば、主人公の彼は彼女のどこに惹かれ、
そして別れてまた再び惹かれたのはなぜか。
本当に闘えるタイプの人なのか、そうでないのか。


そして、誰かの負担になりたくないと、
同じ言葉を時間を越えて二度もつぶやき、
二度も目の前から消した元彼女。
二度めは一番幸せの絶頂に見えたかのような旅立の日に、
なぜ、彼の目の前で、雪の降りしきるレールに
身を投じなければならなかったのか。


地理的に北の果ての釧路という土地は、
始発駅であり、終点駅であることから、
映画のタイトルは、
起終点駅(きしゅうてんえき)となっているが、
始まりと終わりの両方の意味を持つ場であることが、
このストーリーのカギとなっている。


すべてを捨てた人には、北の果ての大地は終点となる。
旅立とうと思う人には、そこは出発の地となる。
この両極端の場として釧路は描かれ、
登場人物の行動も描かれる。


佐藤さんの演技の素晴らしさは安定していて、
歩き方ひとつとっても年代をしっかり表して、
佐藤さんの立ち振る舞いが映画を骨太のものにしていた。
また、お料理もすべてご自身で作られたとのことで、
いくらのしょうゆ漬けの手さばきなど、本当に見事だった。


たんたんと毎日を生きてトボトボと歩く姿、
過去を背負っている悲哀、
思いがこみあげてくるような食事のシーン、
衝動に突き動かさるような急いだ場面、
どれもが深い演技だと思った。


そして、尾野さんの演技は、じっくり見たのは初めてだが、
光と影の演技が本当によかったと思う。
活発な印象があったのだが、物憂いところがある心情を
こんなに繊細に演じられるのだと新鮮だった。


本田さんは、枯れた空気感のなかに、
現代の光をぽっとあてるかのように、
作品のなかに彩りを添えてくれた。
若くて、まだ未来のページがいくらでもあると思える存在が、
この映画のなかに登場したことで、
北の果てという場が、
自己再生のスタート地点だと思えるような爽快さになった。



ただ、演出なのかは定かではないが、
唯一残念だったのが、
北海道の地元食であるザンギ(鶏のから揚げ)を食べるシーンで、
箸の持ち方が不自然なのが気になった。


おいしーいと満面の笑顔で言うセリフが、
それでかき消されてしまうかのようで、
もし演出だとしたら、おもいっきりグーみたいな持ち方で、
現代っ子のようにしてもよかったのではと思った。


実は、試写会の終了後、あの箸の持ち方は、と言いながら、
会場を後にする人たち多かった。
これは、たった2シーンだが、
このシーンが試写会の最初の感想に出てきてしまうのは、
本当に惜しいと思った。


薄暗いような毎日のなかで、
若い女性の笑顔が光のようなアップのシーンだっただけに、
余計に目に入ってしまい、
素敵なシーンの余韻がかき消されてしまうようで、
箸をおいてからアップにしていればと思うと、
本当にここは残念でならない。


どこの場所にいて、
その場所をどのようにとらえるかは、
人のこころのありようによって真逆になる。
それを教えてもらえるような映画だったと思う。
疑問に思ったことの答えは、あいまいなままでいいのだと思った。
なぜそうだったのかということより、
これからどうしたいのかを問うてくれるような、
そういう作品だったと思う。


本作品は、冒頭約18分を11月7日(土)23時59分まで、
公式YouTubeFacebook限定公開されている。
これは、尾野さんが駅のホームで、
自分の気持ちに答えを出すその時までが描かれていて、
尾野さんの登場シーンのすべてがここにある。


試写会を観た後だけに、
ずいぶん太っ腹な長さの限定公開だと思った。
映画『起終点駅 ターミナル』本編冒頭映像 (期間限定)Youtube
映画『起終点駅 ターミナル』Facebookページ


自分にとっての起点、
終点はどの土地だろうと考えさせてくれる。
終わりの場所が自分次第では始まりとなる。


駅という場所は、ただその機能を果たしているにすぎないのに、
人の心のありよう一つで、
そこは、終わりの場にも、始まりの場にもなる。


どんな気持ちで列車に乗るかによって、
それは絶望にも希望にもなる。
駅はただ、人を運ぶために、同じ場所に存在し続けている。


一人ひとりのどんな気持ちを乗せて、
いま、この列車は動き出すのだろうか。


では、また。