萩原朔太郎「こころ」

こんにちは、検索迷子です。


ずっと好きな一冊がある。
『教科書でおぼえた名詩』、ネスコ編、
文藝春秋刊だ。

教科書でおぼえた名詩

教科書でおぼえた名詩

教科書でおぼえた名詩 (文春文庫PLUS)

教科書でおぼえた名詩 (文春文庫PLUS)


教科書でおぼえた、とあるとおり、
教科書で見たものも多く、何度読み返しても楽しめるが、
今日は、学生時代に見た印象がない詩を紹介したい。


   こころ
          萩原朔太郎


こころをばなににたとへん
こころはあぢさゐの花
ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思い出ばかりはせんなくて。


こころはまた夕闇の園生(そのふ)のふきあげ
尾と泣き音のあゆむひびきに
こころはひとつによりて悲しめども
かなしめどもあるかひなしや
ああこのこころをばなににたとへん。


こころは二人の旅びと
されど道づれのたえて物言ふことなければ
わがこころはいつもかくさびしきなり。


「純情小曲集」より


あぢさゐという言葉、
ももいろ、うすむらさきという色彩、
その色のせつない加減が映像として浮かび、
言葉としては、慣れない単語もありひっかかるのだが、
なぜか、目に飛び込んでくるものがある。


知っている言葉、
使い慣れている言葉ではなくとも、
想像を働かせて、心でわかる詩があるのだと、
この一編を読んで思った。


行間にただようかなしみが、ここにある。
それは、具体的な何かでなかったとしても、
誰ものこころに潜む悲しみなのだと、
なんとなく、なんとなく伝わる。


それだけで、詩は心をとらえる。
深く深くではなくても、
立ち止まってしまう詩だった。


では、また。