石垣りん「年を越える」

こんにちは、検索迷子です。


4月から環境を変えようとしている人、
誰かにお別れを伝えて次へ行こうとしている人に、
石垣りんの「年を越える」を贈りたい。


この詩は、新年を迎えるということを書いたものだろうが、
学校から卒業するのであれ、
会社のなかで退職や異動をするのであれ、
年度という単位で人と別れたり、
環境を変えたりということが多いだろう。


年を越えるというより、年度を越えることで、
多くの変化がもたらされる。
新年になるより、新年度になるほうが変化が大きいことはざらだ。
だから、12月から1月より、
3月から4月の変化のほうが、心はざわつく。


この詩を紹介しようと思ったのは、
検索迷子のブログには、お別れの挨拶を探して、
検索迷子にたどりつき、閲覧してくださる方が多く、
その方たちに何か私から言葉をかけられないだろうかと思ったことだ。


検索迷子は、お別れの挨拶を綴った、
一連のエントリーが読まれ続けている。
お別れの挨拶に聞きたい言葉 - 検索迷子
お別れの挨拶を言えますか。 - 検索迷子
さよならより、ありがとうを - 検索迷子
さよならなんてだいきらい - 検索迷子
お別れの挨拶ができる喜び - 検索迷子
丁寧にさよならを言いたい - 検索迷子


3月は例年特に多く、2009年7月に開設して以来、
昨日初めて、1日1000アクセスを越えた。
今日これを書いている時点でもそうで、
昨日の数字はまぐれではなかったと驚いている。


お別れの挨拶を探している人に、
決して会ってお礼はできないけれど、
せめても私からお礼の詩を届けようと思った。
それが、「年を越える」だ。


この世に存在する美しい言葉を紹介することで、
お礼の気持ちを伝えたいと思う。

年を越える
           石垣りん


そして さしかかる

私たちは登りつめる。
一年の終わりの何日かを
どうしても
どうしてか
越えなければならなかった。
だれと約束したのでもない
そのことじたい目的があるわけでもない。
そういう旅を人は強いられていて
急ぐ。
なぜか この道はさびしい。
多勢の足音がきこえているのに
みんなひとりの峠を越えてゆく。



『レモンとねずみ』石垣りん、童話屋刊


レモンとねずみ (童話屋の詩文庫)

レモンとねずみ (童話屋の詩文庫)




新しい環境にいく直前、
その前の場所での別れがつらくなり、


一年の終わりの何日かを
どうしても
どうしてか
越えなければならなかった。


というのが、やけに胸に迫る。


多勢の足音がきこえているのに
みんなひとりの峠を越えてゆく


誰もがこの時期、経験するであろう別れであっても、
自分が決めて、前に進むために、
自分が過去を変えるために、
どうしても、
どうしてか、
この峠は越えなければならないんだと、
気持ちを奮い立たせることがある。


辞める決意はしたものの、
挨拶まわりや引継ぎをしながら周囲の優しさに触れ、
ああ、なんで辞めようと思ったんだろうと一瞬だけ後悔したり、
ああ、あと数日でここの会社とも縁が切れてせいせい、
と思って最後の数日を過ごしたことがあった、


いずれにしても、
どうしても、
どうしてか、
越えなければならなかった時間だ。


さしかかった峠を前に、
私たちは登りつめるのだ。


一人の峠を越えていくしかないのだ。


今の数日の苦しみが、
数ヶ月、一年後、あるいはもっと先に、
越えてよかったと思えるような、
そういう時間であってほしい。


だれと約束したのではない。


峠を越えようとしたのは、
峠を越える決断をしたのは、
紛れもなく自分なのだ。


どうぞ、力を振り絞って、
どうぞ、勇気を振り絞って、
さよならという峠を越えてください。


できれば笑顔とともに。


お別れの挨拶を探している、
心優しいあなたに、
検索迷子は、あなたを背中を押す、
あなたの心を癒す、
そういう言葉を紹介していきたいと思う。


一日1000回もアクセスされて、
何かを持ち帰ってもらえるような、
そういう言葉を伝え続けたいと思う。


それは、
だれと約束したのでもない、
私が自分に作った峠のようなものなのだと思う。


お別れの言葉を探しているあなたの、
その温かい気持ちに、
もっと寄り添える存在でありたいと思う。

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石垣りんさんの詩については、過去にもレビューしています。
よろしければあわせてお読みください。


石垣りんの「表札」の潔さ
石垣りんの『貧しい町』
石垣りんの先見性(私の前にある鍋とお釜と燃える火と)
石垣りんの「峠」
空をかついで
洗剤のある風景
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石垣りん「夏の本」
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では、また。