大切なお客様に説明する責任

こんにちは、検索迷子です。


コミュニティサービスを運営しているとき、
お客様からさまざまなクレームが寄せられました。


毎日、毎日、
膨大な量の「説明してほしい」「納得がいかない」という文面を見てきました。
怒りのエネルギーにつぶされそうになりました。


サポートセンター経由のメールもあれば、
サービス内の書き込み機能を使ったものもありました。


その対応をする際、
たった一言言えばわかってもらえそうなことでも、
インターネット上のサービスであるゆえに、直接、対面で説明する場がありませんでした。
メールに返信することもできませんでした。


会社の方針として、運営者はサービス上でお客様と距離をおくように言われていました。
説明したくても、説明の場がなく、たまり続けるクレームに途方にくれていました。



言葉で伝えられないのだから、
サービス上の機能で実践するしかないと、機能改善に注力してきました。


ヘルプページを見直したり、
ナビゲーションを整備したり、
プロモーションページを作ったり、
毎朝、前日の効果測定をしながら導線を確認し、
考えられる実装はすべて一通りやってきました。


それでも、説明してほしいというメッセージは減りませんでした。




インターネット上で提供するコミュニティサービスは、
全体最適を目指す場として運営されています。
そのため、個人にとっての快適さを犠牲にする面がどうしても出てきます。


一人ひとりに合った、その人が望むことが実現できなかったり、
誰かのお気に入りな機能も利用率が低ければ、停止せざるを得ません。


また、あきらかなバグであっても、
会社として対応できる人員は限られているため、優先順位づけによって、
認識しているけど当面手当てをしない、という対応が常態化しています。


中には、同じ要望を何度も何度もしてくるお客様も多数いました。


真摯にサービスに要求してくださることを、多忙さを理由に、
適当にあしらい、かわし続けているうちに、
本当はサービス運営側のこちらの対応がまずいことでも、
「何でメールを送りつけてくるんだ」と、
お門違いな怒りになってきたこともあります。


メールを送ってこないでほしい、
コンタクトを求めないでほしいと何度も思いました。
悪いのは、自分の側なのに、相手の行動の連続性だけを責めていました。



悪いのは、お客様に説明ができず、お客様を納得させられていない自分なのに。
なのに、こんなにサービスを大切に思ってくれて、
何かメッセージを投げてくれている。でも受け止めきれないから、
相手が悪いとまで思うようになっている。


自分のほうが明らかにおかしい。




きちんと向き合おうと思いました。
最大限の誠意で伝えようと思いました。



プロジェクトで話をして、
コミュニティサービスの運営者としての思いを、
人間らしい言葉で伝えるページを作成することにしました。


会社には前例のないことでした。
反対もされ、失笑もかいました。
それでも、どうしても実現したいものでした。



こういう思いを込めてサービスを運営しています、
こういう行為は、こういう思いによって対応しています、
こういう気持ちで使ってほしい、
あなたにとって、他の利用者にとって、
こんなサービスであってほしい、そのために私たちは力を尽くします。


そんな内容でした。



会ったことのない人に向けて、心を込めて手紙を書くような気持ちで、
下書きを完成させていきました。
何度も何度も書き直し、私がこの文章を読んだとき、
このサービスを愛していけるだろうかと感度も推敲しました。


サービス上では、たった1ページのことです。
見ようによっては、一方通行なのには変わりはありません。


でもせめて、この1ページをわかりやすい場所に配置し、
一度はクリックしてもらい読んでもらいたいと思いました。


私はあなたに伝える気持ちがありますと、
このリンクを押してほしいと、設置場所のリンク文字列に願いを込めました。



決して、一方通行の押し付けではなく、
お客様一人ひとりの心に届けて、
行動に反映してもらえるよう、
サービスを楽しんでもらえるように心を込めて書きました。



説明から逃げるのではなく、
きちんと説明をしたい、
お客様と一緒にこのサービスを作り上げたい、
その一心でした。




このときから、私自身もサービス運営者として気持ちが定まってきました。


クレームやこじれた事態があったとき、
説明から逃げない、
なし崩しにして結論をグレーにしない、
勝手に相手との交渉を断ち切らない、
キレて一方的にリセットボタンを押すようなずるいことはしない、
三者の権力や介入を借りずに自分でできる最大限の対応をする、
ということを考えるようになりました。



そして、一般論としての対応ではなく、
一人ひとりが特別なお客様であるのだと伝えるために、
一つひとつと真摯に向き合う、
直接対話により近い形で説明する、
という姿勢で取り組もうと思うようになりました。



さらに、一番重視したのが、
自分がした説明に対して、相手の納得した様子を見届けることでした。



一方的に送りつけた言葉で自己満足するだけではなく、
相手の受け止め方をきちんと見よう、
そこまでが私の仕事だと思いました。




お客様に思いを込めた手紙のようなページは、
その公開直後から、お客様同士がサービス内が荒れたときに、
仲裁のために、サービスガイドラインを教えあうページにまで発展しました。


運営者はこう言ってるよ、それはいけないんだよ、
それはいいんだよと、私の気持ちを代弁してくれるお客様が、
他のお客様に教えてくれていました。


説明をしようと覚悟を決めて伝えたことで、
お客様の心を動かし、
お客様が他のお客様を誘導してくれている。


こんな喜びは他にはありませんでした。


私は一言も声を発していないのに、
言葉で説明できたのだと思いました。




これからも、説明することから逃げず、
大切なお客様であればあるほど、
今できること、今できないことをはっきりと伝え、
こんな思いで作っている、
こんなことはしたくないと正直に言い、
インターネット上の距離感はあっても、心が通い合うサービスを
手掛けたいなと思います。



大切なお客様だからこそ、説明をしたい。
納得の度合いを知るまで見届けたい。


お客様に誠意ある対応をして、たとえ今は実現できない機能であっても、
また、このサービスを使おう、
このサービスとの関係を断ち切らないでいようと思ってもらえるよう、
伝えることで納得してもらい、
お客様の次の幸せに向かっていつか役立つサービスだと、
期待をもってもらえるよう行動したいと思います。



大切なお客様だからこそ、
今この瞬間、サービスを使ってくれている縁を切りたくない。



数あるサービスの中から、
私が手掛けたここに来てくれている偶然の出会いを、
きっと幸せに結び付けたい、
誰一人傷を負って、立ち去らせたくないと思っています。


では、また。



(追記)
以前、http://d.hatena.ne.jp/kensakumaigo/20090705/1246802125
検索迷子−『「へんな会社」のつくり方』で、涙。

このエントリーで、
はてなさんのユーザー対応に感情移入したお話を書きました。


お客様を大切にする姿勢や垣根のない距離感が、
愛されるサービスを作り、支持されているのだと、
お客様への対応のすばらしさに今でも心が打たれます。


インターネットのサービス運営者として、
伝える勇気と誠意のあり方を教えてくれた一冊です。
この本に出会えてよかったと思いました。