ワーク・シフト

こんにちは、検索迷子です。


働き方は多様になってきている。
もはや終身雇用も、会社に勤めていれば仕事があるということも、
ずっと保障されるものではなくなっている。


受身で誰かに自分のキャリア形成を預けるというのは、
過去のものになりつつある。
といっても、新卒で入社した会社に長く勤めて、
それなりのポジションにいる人は実感がわかないかもしれない。


自分自身、何度も転職をして、
ときに収入が減り、ときに待遇やポジションが変わり、
リスクを引き受ける生き方をしてきた。
悔いることもあれば、これで良かったと思うこともあった。


でも、同年代の安定したポジジョンを手に入れている人と比べると、
なんと不安定で、なんと落ち着かない生き方なのだと、
状況が悪いときはそれなりに落ち込むこともあった。
が、もはや、同じ会社に長く勤めるという過去に遡ることできず、
前だけを向いてキャリアを築くしかないと思っている。


そんな自分の生き方が、決して間違っていなかった、
むしろこれからは、働き方を選択する時代が来るのを、
自分は先行してやってきただけだと思えた本がある。


それが、リンダ・グラットン著、
『ワーク・シフト −孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>』、プレジデント社刊だ。

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

ワーク・シフトとは


ワーク・シフト、つまり働き方の転換をどのようにするか、
私たちは考えながら働く時代が、今後更に加速するという提唱だ。


骨子は、訳者あとがきにコンパクトにまとまっているので、
それを引用したい。

訳者あとがき


孤独で貧しい未来を迎えないために、私たちが働き方をどう<シフト(転換>させるべきかを提案する。<第一のシフト>は、一つの気魚うの中でしか通用しない技能で満足せず、高度な専門技能を磨き、ほかの多くの人たちから自分を差別化するために「自分ブランド」を築くこと。<第二のシフト>は、難しい課題に取り組むうえで頼りになる少数派の盟友グループと、イノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢の知り合いのネットワーク、そしてストレスを和らげるための打算のな友人関係という、三種類の人的ネットワークをはぐくむこと。<第三のシフト>は、大量消費主義を脱却し、家庭や趣味、社会貢献などの面で充実した創造的経験をすることを重んじる生き方に転換すること。


この意味するところは、個人的にとても納得がいく。
意識して実践していることもあるし、
その途中であることもある。


もはや、組織の決められた制約のなかで動くのではなく、
自分でどうやって自分の環境を作るのか、
その力が試されていく時期になっていると痛感している。


そのほかに印象に残ったことを数点書いておく。

遊ぶことの大切さ


高度な専門技術を身につけるために、これまでの管理の枠を超えて、
遊びと創造性が重要になると本書では指摘している。


第4部 働き方を<シフト>する

第8章 第一のシフト
−ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ


子どものように遊ぶ
仕事が遊びになるのは、普段はやらないことをする場合、普通やっていることをやらない場合、ものごとを普通より極端にやる場合、社会生活のパターンをひっくり返す場合だ。ロンドン・ビジネススクールのチャラランポス・マイネメリスとセーラ・ロンソンは、この四つの形態を逸脱、回避、強化、逆転と呼び、それを遊びと祝祭的行動の基本要素と位置づけている。日常と違うことをするとき、日常の時間と場所の枠を越えて行動するとき、なんの制約も受けずに行動していると感じられるとき、手段と結果の関係に関する固定観念を離れて柔軟に振る舞うとき、私たちは「遊んで」いると言える。これらの要素が遊びを生むとか、遊びがこれらの要素を生むと考えるのは正しくない。これらの要素が遊びそのものなのである。


(中略)
自分のやっていることに胸躍らせ、学習と訓練につきものの苦労を楽しみ、手ごわい課題に挑むことにやりがいを感じてはじめて、私たちは本当に高度な専門技術を習得できる。


遊びが重要なのは、遊ぶことにより、普通は接点のない要素が組み合わさるからだ。人間関係の面でも、遊びを通じて、通常の仕事上の人間関係にとどまらない人的ネットワークを築き、いろいろなタイプの人と触れ、多様なアイデアや手法を試せる。第9章で述べる「ビッグアイデアクラウド(大きなアイデアの源となる群集)」を活性化するうえでも、遊び感覚に満ちたやり取りや社交行事、趣味の活動がきわめて効果的だ。

ビッグアイデアクラウドを築く


日常、狭い世界で人間関係を深耕させることだけに注力しがちだが、
本書でも引き合いに出ていた事例を他でも見たことがあり、
あらためてはっとした。


それが、職探しに関するアメリカの社会学者マーク・グラノヴェッターの研究だ。


その内容とは、職探しには、
「ストロングタイズ(強い絆:友人、家族、親戚、同僚など)」を見つけるケースよりも、
「ウィークタイズ(弱い絆:友人の友人、単なる知り合い)」を通して情報を得るケースが多いという研究だ。


この研究からわかることは、
自分と同じ世界にいる友人や同僚とばかり接していては、
自分の知らない情報はほとんど入ってこないということだ。
だから、大規模で緩やかな人的ネットワークが重要になるのだ。


さらに本書では、オンライン上の、
不特定多数のビッグアイデアクラウドの力を活用した問題解決も紹介している。


ネット検索で答えを見つけられない問題があれば、
ヤフーが運営する「ヤフー知恵袋(ヤフー・アンサー図)」で質問すると、
そのテーマに詳しい人がたいてい回答を寄せてくれる。


という、一文はリアルにイメージがつきやすい例だろう。
オンライン上だけでなく、リアルな場で実践していくことが必要だと思った。


では、どうしたらそういうネットワークが築けるか。
意識すべき点として三点があげられてる。

第9章 第二のシフト
−孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ


ビッグアイデアクラウドを築く
意識すべき点は三つある。第一は、普段あまり行かない道を歩くこと。いつもと違う世界に足を踏み出し、知人の範囲を広げ、自分と違うタイプの人たちを人的ネットワークに取り込むのである。第二は、人との付き合いの面でカメレオン人間になること。自分ときわめて異なるタイプの人たちのグループに加わるときは、そのグループの流儀に合わせて自分のスタイルをある程度変更するつもりでいるべきだ。第三は、「プッシュ(押す)」ばかりでなく、「プル(引き寄せる)」を心がけること。多くの人の名前を覚え、多くの人と接するだけでなく、多様な人たちに自分に興味をもってもらい、向こうからアプローチしてもらう必要があるのだ。

自分の選択の結果と代償を受け入れる


最後に、自分がこの一文にもっと早く出会っていたら、
余計な悩み方をしなかったのにと思うものを紹介したい。


非営利団体で管理職を務める女性の言葉だ。

第10章 第三のシフト
大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ


バランスのとれた働き方を選ぶ勇気


私たちは非営利団体に移るとき、営利企業で同等の役職を務める場合より給料が下がることを覚悟していました。経験の「質」を手にするために、消費の「量」を手放す決断をしたのです。この点は、私たちが受け取る報酬のあり方にも関係してきます。業績をあげた人物に高給で報いることができない組織は、代わりにどのような「報酬」を提供できるのでしょうか? 私の場合、リーダーシップを古い、責任を与えられ、意思決定をくだす経験がとても大きな報酬になっています。そのおかげで、仕事を通じて幸せを感じられています。このような機会が得られるとわかっていれば、物質的な要素はもっと早く捨てていたのに。


転職を繰り返してきた自分は、
経験の質を求めてきた。
そして、そのときどきで消費の量を見直してきた。
でもそれは、自分としては苦渋の決断だったり、
ネガティブな気持ちを引き起こすこともあった。


だけど、経験の質、つまり多様な職種や業界で、
自分の知らない自分を見てこれた。
うまくいったことも、失敗したことも含めて、
一箇所にとどまっていては決してできなかったことだ。


そして、その経験の積み重ねがあるから、こんにちの自分がいる。
現在が最適かはさておき、少なくとも、過去の時間は否定するもではなく、
自分が自分になるために積みあがってきたものなのだと、
肯定的に今を受け止める気持ちになれた。


ワーク・シフトは自分にとって、
過去も未来もずっと大きなテーマだ。
現に、終身雇用のレールから降りた今、
もうワーク・シフトの実践の渦中にいるのだ。


あとは経験の質を高めるだけだ。
2025年には、どうなっているのだろうか。


この本は、ぜひ他のひとにもお勧めしたい。


著者紹介によると、
リンダ・グラットンは、ロンドン・ビジネススクール教授である。
経営組織論の世界的権威で、
英タイムズ紙が選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」の一人だそうだ。


本書は折を見て、再読したい。
自分の働き方の指針を常に考えさせてくれそうだ。


では、また。