『エクスペリメント』試写会

こんにちは、検索迷子です。


映画、『エクスペリメント』の試写会に行ってきました。
今日は、その感想を書こうと思います。
映画、『エクスペリメント』の公式ホームページはこちらです。


実際に行われた心理実験


この映画は、実際に、スタンフォード大学で行われた心理実験を元としている。
まさに、エクスペリメント=experiment=実験、なのだ。
普通の人を新聞広告で高額報酬をうたい集め、囚人役と監守役に分けて、
肩書きをつけることによってどのような変化がみられるか。


この、スタンフォード監獄実験については、
行動心理学などで事例としては聞いたことがあったため、
とても興味深く映画を見た。
結果として、人は、特定状況下で役割を与えられると、
その役割に適応していくという結論はわかっていたが、
この映画は、その事前知識の想像を上回る壮絶さだった。


実験内容については、映画の脚色と部分的に違うところもあるが、
概要としては、次の内容である。

Wikipedia - スタンフォード監獄実験


1971年8月14日から1971年8月20日まで、アメリカ・スタンフォード大学心理学部で、心理学者フィリップ・ジンバルドー (Philip Zimbardo) の指導の下に、刑務所を舞台にして、普通の人が特殊な肩書きや地位を与えられると、その役割に合わせて行動してしまう事を証明しようとした実験が行われた。模型の刑務所(実験監獄)はスタンフォード大学地下実験室を改造したもので、実験期間は2週間の予定だった。

新聞広告などで集めた普通の大学生などの70人から選ばれた被験者21人の内、11人を看守役に、10人を受刑者役にグループ分けし、それぞれの役割を実際の刑務所に近い設備を作って演じさせた。その結果、時間が経つに連れ、看守役の被験者はより看守らしく、受刑者役の被験者はより受刑者らしい行動をとるようになるという事が証明された。


こうした事実だけ読むと、なるほどと思うのだが、
この映画で受けた衝撃は、人が変貌する姿をまざまざと見せつけられた。
本当に生身の人間を使った実験だったのだと思うと怖くなった。
普通の善良な市民だった人は、監守役になることで、
極悪非道ともいえる残酷な処刑の鬼になっていった。
人の尊厳を陥れるかのような懲罰を、よくここまで思いつくなと思った。


そして、囚人役となった人たちも、ごく普通の心が奪われて、
卑屈に、そして復讐に燃え、生きる意欲をそがれていくかのようだった。


監督・脚本は、「プリズン・ブレイク」のポール・シェアリングで、
監獄ものを得意としているだけあって、迫力がものすごいものだった。
もともとは、同じスタンフォード大学監獄実験を題材とした、
ドイツ映画es(エス)に題材を見出したという。

es[エス] [DVD]

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演技の凄み


囚人役トラヴァスを演じた、エイドリアン・ブロディ(Adrien Brody)は、
戦場のピアニスト』でアカデミー主演男優賞を受賞している。
Wikipedea - エイドリアン・ブロディ

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監守役のバリスを演じた、フォレスト・ウィテカーは、
『ラスト・キング・オブ・スコットランド』でアカデミー主演男優賞を受賞している。
Wikipedea - フォレスト・ウィテカー


両者の演技は迫力のあるもので、特に監守役のフォレスト・ウィテカーの変貌、
狂気に向かうさまは凄かった。
気が弱く、病気の母親を支えるために報酬が生活費のために必要となり、
この実験に応募した彼は、囚人役のバリスとは面接でにこやかに挨拶をするような、
典型的ないいおじさんであった。


それが、日を追ってみるみるうちに変わり果てていく。
人はここまで、狂気に向かっていけるのかと驚いてしまった。
囚人役のバリスも、ひょうひょうとした性格が復讐の塊となっていった。
両者とも、最初とは顔つきがまるで変わっている。
役者としての凄みすら感じる。


閉塞感での闘争から、実験終了となったときの空虚さへ


14日の実験は、倫理的な面で6日で終了した。
わずか、6日がこんなにも長く、こんなにも人を変えるのに十分な時間だとは、
思ったことがなかった。
暴力、憎悪、あらゆる心理的な抑圧のなか、
人としての尊厳とは何かと考えさせられた。
人は、与えられた肩書きや立場によって、ここまで変わるのだろうか。
変われるのだろうかと思った。


刑務所が暴力の渦となっているさなか、実験中止の赤いサイレンが鳴った。
そして、刑務所のドアが外に向かって開かれ、
誰もがこれは実験だったのだと我に返る。
このときの空気感が空虚さに包まれて、何ともいえないものが漂っている。
高額報酬と引き換えに、彼らは何を得て、何を失ったのだろう。


この実験は、事実だからこそ余計に怖い。
この実験を計画したのも、参加したのも実在する人だったのだと思うと、
心理実験って怖いと思った。

弱肉強食を思い知る


実は、この映画が始まってすぐと、
10分めくらいのシーンで、弱肉強食を思い知らされるシーンが、
これでもかというくらい連続して出てくる。
それは自然界で動物の戦いだったり、人の社会における惨殺シーンだったりする。
心理的に追い詰められていき非常に気分が悪くなり、
これでもかこれでもかというシーンの連続に、
席を立とうかと思ったくらいだった。
心臓があまり強くない人は、だから、お勧めできないですね。


やっとこういうシーンのあとに、
恋愛のシーンが出てきて、少しほっとして救われた。
囚人役となったトラヴァスは、失業したばかりのときに、
インドに行こうとしている彼女と出会い、
その彼女を追いかけてインドにいくために、この高額報酬実験に参加した。
彼女と出会い、心を通わせるところを見て、
やっと人間らしい温かい気持ちになれるシーンが出てきたと、
萎縮した心臓がふわっと感じになれた。


だから、高額報酬を得るための目的も、
実験の後の未来も描けていた。それがこの映画のわずかな光であり、救いだった。
恋愛のシーンはそんなに多くはないが、
この心理的圧迫状況を強いられる映画では、
いきなり花畑が広がるかのように、ほんとうに光がさしこむような気持ちになった。


人はどこまで変われるのか。
そして、肩書きとは何だろうか。
役割って、何だろうか。


強者と弱者って、作られていくものなのかもしれないと思った。


心理実験の中身を知りたいという好奇心で観た映画ですが、
思った以上に深く、心をえぐられるような気持ちになりました。
残虐シーンには目をそむけたくなるところも多かったですが、
それ以上に、人の立場とふるまいについて考えさせられました。


精神的にタフでないと、この映画はかなり観るのがしんどいかもしれません。
でも、甘いトーンの映画にはないものを見せてくれると思いました。
個人的には、自宅で観れない映画だなと思いました。
スクリーンで大勢で観てよかったです。


人は、役割を演じて生きているのかもしれないなと、思う映画だった。
そう、普通に生きている人すら何かを演じているのかも、と。
狂気はあっというまに人の心を奪う。


そして、その狂気の気持ちを救ってくれるのも、
人の心なのだと思った。
それがわかっただけでも、良かった。


では、また。