香る金木犀

こんにちは、検索迷子です。


金木犀が香る季節になると、秋が来たんだなと思う。
私が住む地域は、ボランティアの人たちによって、
季節の花々が花壇や道端いっぱいに咲き乱れている。
そのなかで、一年を通してもっとも香りにインパクトがある花だと思う。


ところが、この金木犀、花としてよりも、
トイレの芳香剤のほうが馴染み深いようで、
道を歩いていると、トイレのにおいがするーと言っている子どもや、男性がいる。


あらら、キンモクセイのいい香りが台無しと思うものの、
ここまで、香りが印象深く、何かを思い出し、
キンモクセイ=花、
と植物に興味がないひとにまで、関心を持たれる花もそうそうないだろう。
バラとか桜とかチューリップとか、秋桜(コスモス)とか、
向日葵(ひまわり)、紫陽花(あじさい)、、、。
そういう花の匂いって、なかなかわからないですものね。


そして、実際の金木犀の香りは、芳香剤のそれよりも、やわらかで、
ふっと和む香りがする。
だから、余計に嫌ではない香りとしてなじみがいいし、
秋の散策にはぴったりな気がする。



それにしても、金木犀を芳香剤として認識しているという人の多さ、
認知度は凄いなと思う。
誰かがどこかで嗅いだ匂いを、他人に、芳香剤みたいだよねと言っても、
誰もがうんうんと答える。
オフィスで、こういう家庭向けの強い香りの芳香剤はあまり見ないので、
自宅や別々な場所で共通体験をしているのだろうなと思う。


たぶん、今、金木犀は芳香剤の匂いと思っている人は、
この先もずっとそう思うのだろう。


香りの思い出


金木犀ではないが、私自身も香りの強いものが好きで買い求めることが多い。


あるとき、会社の上司が通勤電車で、
あ、私がいる、とラッシュの隙間を縫って、後ろ側から声をかけた。
すると、聞こえなかったのか無反応で、肩をたたいてみた。


振り返ったその人は、まるで知らない人だった。
ぎろっとにらまれたらしく、
すいません人違いでしたと、痴漢に間違われないよう慌てて、つり革を探してつかまったという。


この話を随分時間が経って聞き、なんで間違えたんですかと聞いたら、
身に着けている匂いが同じだと思ったんだよと言っていた。
ちょっと珍しくて、会社でも私が通るとその匂いでわかったと言っていた。


でもその人は、おしゃれにうとくて、
シャンプーなのか、柔軟剤なのか、石鹸やボディーソープなのか、香水なのか、
それは全然わからなかったらしい。


今にして思うと、たぶん、香水だったと思う。
当時、海外で買った香水が気に入り、日本でも数店舗しかない販売店を探し、
切らさないように買い求めていた。


でも、いつしかその香水は、年齢とともに使わなくなった。
今でも売っているのかさえ知らない。


人は、五感で思い出を作ることが多いだろうが、
私の場合は香りが大きい。


一時期気に入っても、一本使い切ると同じものを買い求めない。
年齢による好みの変化もそうだし、気持ちを切り替えたくなるためだと思う。


だから余計に、その一本を使っていたころの時期が鮮明に浮かぶ。
香水ごとに思い出がくっついてしまっているような気がする。



電車で間違われたときの香水は、まだ同じものをリポート買いをしていたときのもので、
何年かはつかったかもしれない。
でも、もう今は手にすることはないと思う。


香りは好きだった。
もし、ビンをあけて匂いを嗅ぐと、人が私を思い出すのではなく、
私がそのエピソードを話した上司を思い出すかもしれない。


本当にこの匂いだったのか、この香水だったのかと聞くこともなく、
その人は、ある日、亡くなってしまった。


だから余計に、二度と手にとれない香水かもしれない。
幸いなことに、あまり大量販売をしておらず、
私以外の人が使っている場面には遭遇していない。
特別なエピソードがその人となかったとしても、
この電車の人違いということだけで、その人を思い出すと思う。



金木犀は、その点、生活の消耗品と思い出が結びついている分、
なんだか、あっけらかんとした香りのような気がする。


香り一つで、思い出すシーンがある。
香り一つで、きゅんとなることがある。


金木犀は秋のいっときを、少し豊かな気持ちにしてくれる。
加工された花の匂いではない、本物の匂いは安らぎがある。


香りって偉大だなと思う。
昔ある本で読んだもののなかに、女性は一年間に4回シャンプーを変える、
というくだりがあったが、これには納得する人もいるかもしれない。
毎日のことだから、ささやかな気分転換を。


香るもの、いいなと思う。
自分で買うのも好きだし、贈り物で自分では選ばない意外なものであるのもうれしい。


いい香りは、何か幸せにつながっていくような高揚感がある。


さて、明日はどんな香りに出会うのか。


では、また。