こんにちは、検索迷子です。
『コミュニケーションをデザインするための本』岸勇希(きし・ゆうき)著を読んだ。
- 作者: 岸勇希
- 出版社/メーカー: 電通
- 発売日: 2008/09/03
- メディア: 単行本
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「コミュニケーション・デザイン」という言葉が、ずっと気になっている。
Webサイトを作る、情報を発信する役割に関わるうえで、
コミュニケーション・デザインをする人間は何をすればいいのだろうと思う。
この本が気になりだしたのは、次のエントリーを書いたときだった。
ホリスティックという調和
この『ホリスティック・コミュニケーション「アクティブ・コンシューマーの出現で
進化するる広告と販促の協会」』の著者の一人である杉山恒太郎さんが、
本書の「刊行によせて」を書かれている。
また、明日の広告のエントリーで取り上げた佐藤尚之さんも、ご自身のサイトで本書を言及している。
www.さとなお.com − 岸勇希著「コミュニケーションをデザインするための本」
「コミュニケーション・デザイナー」はどんな役割か
本書の「はじめに」によると、著者である岸さんが勤める電通では、
「コミュニケーション・デザイン・センター」という組織があり、
「コミュニケーション・デザイナー」という肩書きがあると知った。
また、電通は数年前から自社の事業領域を、
「広告代理業」から「トータル・コミュニケーション・サービス」と定義しているそうだ。
「コミュニケーション・デザイナー」の役割は次のように説明されている。
プロモーションやブランディングなどの広告キャンペーンから商品開発、事業企画に至るまで、企業(クライアント)と生活者の間に存在する、ありとあらゆるコミュニケーションを設計していく仕事
また、次のようにもある。
コミュニケーション・デザインは、マーケティング・パート(戦略)、クリエーティブ・パート(表現)、メディア・・パート(実施)といった分業をしません。最初から最後まで、コミュニケーション・デザイナーが一貫して作業に絡みます。
なるほど、こうした情報の中間の役割も、
機能名称だった「代理」を「デザイン」とすると、哲学的要素を含み、
理想像を加えたような概念に変えると、広がりが増すような気がした。
私は情報産業に関わる自分の役割をいつも、
「情報と人とを結びつける」とか、
「情報の発信者と受信者の仲介者となる」という言葉を使ってきた。
ああ、そうか、「コミュニケーションをデザインする」仕事が、
自分にも近いのかもしれないと思うようになった。
コミュニケーション・デザインの実践
本書内で印象深かったものを引用して紹介する。
第3章 コミュニケーション・デザインの実践
考え方とヒント
コミュニケーション・デザインの3つの意識
1.Neutral
固定概念や思い込みを捨て、問題解決の方法をニュートラルに考えられているか?
2.Simple
キャンペーンの構造がどんなに複雑だったとしても、生活者が広告に接触した瞬間のコミュニケーションは、シンプルでわかりやすいものか?
3.Faithful
課題解決に対して、誠実に臨んでいるか? 単に"新しいから""面白いから"など、企画側のエゴだけになっていないか?
コミュニケーション・デザイン5原則
1.思い込まずにインサイト
Social Insight/Client Insight/Target Insight・・・肌感覚に頼り過ぎない
2.課題解決のためにありとあらゆる手法、選択肢を考える
Solution 1st・・・メディアから考えない、メッセージから考えない
3.メディアと表現を分離しない
Contact Point Creative・・・生活者が広告に接触する瞬間を大切にする
4.仕組みではなく、気持ちをデザインする
Emotional Design・・・技術や仕組みは目的ではなく手段
5.結果に固執する
Result 1st・・・広告の本質を忘れない
結果に固執するということが、岸さんが個人的に一番こだわっているようです。
確かに、広告が良くても、商品が売れないという置いていかれた状況や、
そもそも、物を売るためなどの問題解決をするために、仕事は始まります。
だから、生活者の方を向きつつ、
依頼主の存在、広告の役割を見据えるということは、
それはやはり外せない観点なのだと痛感します。
なお、用語を補足して説明をしますが、
「インサイト」という言葉になじみがない人もいるかもしれません。
一般的には、インサイト(insight)とは、英語で洞察、見識のことですが、
広告においては、もう少し違った使われ方をしているようです。
著作に同名タイトル『インサイト』がある、
桶谷功(おけたに・いさお)さんのサイトからご紹介します。
インサイト――――
それは、消費者が思わず動く、心のホットボタン。
- 作者: 桶谷功
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2005/02/17
- メディア: 単行本
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電通100色の名刺
コラムで取り上げられていたのだが、電通は自分の好きな色の名刺を選べるという。
1年間同じ色を使い続けるルールはあるが、ほかは本人次第だそうだ。
会話のきっかけづくりとなるこの名刺を、
岸さんは「素敵なコミュニケーション・デザイン」として紹介している。
好きな色の名刺を選べるなんて、発想もよく、
持っている当人も受けとった相手も楽しく、印象深いツールになる。
それを実現させた組織の実行力もすごいと思った。
名刺交換ひとつとっても、コミュニケーションなのだとあらためて思った。
第4章 コミュニケーション・デザインのこれから
日々試行錯誤
Contents Creation
人を魅了する。人を集める
時間を奪われるだけの価値
生活者視点で考えたとき、その価値を持っているモノは恐らく以下の2つしかありません。
・圧倒的に"お得な"モノ(情報)
・圧倒的に"面白い"モノ(情報)
タダコピの活用
本書の事例にもありましたが、永谷園「ミス冷え知らずCOLLECTON'08」では、
ミスキャンパスが登場した広告キャンペーンの一環として、
大学に設置されている「タダコピ」と連動した話題がありました。
タダコピとは、構内に設置された無料のコピー機ですが、裏面に広告が出ます。
オーシャナイズという学生のベンチャー企業によるものです。
オーシャナイズ − タダコピ
私もこれを使ったことがありますが、テスト期間中には行列ができます。
タダだから待つということもありますが、
その仕組みが面白いから待つという面もありました。
時間を奪われても、これをサービスを始めた当初から使ってみたいと思いました。
永谷園のイメージをくつがえす、ミスキャンパスを起用する華やかさ、
タダコピという学生の目につくものという仕掛けが面白いです。
現物は見ませんでしたが、こういう発想ってすごいですね。
さて、本書にあるコミュニケーション・デザインには、
生活者としても、情報提供者としても発見がたくさんありました。
情報はただ、垂れ流しては誰も見向きもしない。
その情報を伝える意図を考え抜いてこそ命が吹き込まれる。
情報の先に、どんなコミュニケーションを創出したいのか、
誰と誰の幸せを願うのか、どんな結果を導きだすのか、
作り手の一人、発信者の一人、そして生活者の視点を持ちながら、
プロの情報の真ん中にいる一人でありたいなと思わされる本でした。
ただ、モノを作るのではなく、生活のシーンを提供する仕事をしたいと思う。
では、また。