勉強して済むなら勉強する

こんにちは、検索迷子です。


数年前、とある短期講習会に参加していたとき、
いつも私の後ろに座っている人がいた。
シルバーグレーで落ち着いたたたずまいのその人は、
いつもイヤホンをつけて、何かを聴いていたため音楽好きか、
はたまた落語でも聴いているのだろうかと思っていた。
年齢層も違いそうで、話しかけることもなく数回が過ぎた。


講義の実習を通してグループワークをする段階になり、
やっと会話をするようになり、
講義のあとで駅までの道を一緒に帰るようになった。


聞くと、頻繁にニュースにあがるナショナル企業の超大手にお勤めだったが、
少し前に人員整理の対象となったという。
つまりリストラをされてしまったのだ。


国立の超エリート大卒で入社以来、業務実績を積み、
数年前からは海外事業部門を立ち上げ準備から、現地での運営、
そして閉鎖まで一人でこなしたという。
実績を伺うだけでも、
並みの若手や中堅どころのサラリーマンが経験できるレベルのことではなかった。


さらに、いつも聴いているのは英語のオーディオブックとのことだった。
最近受けたというTOEICは、980点ほどだったという。
990点満点のTOEICを考えたらほぼ満点だ。


実践で契約や訴訟対応、経営マネジメントに関わることなどを英語でこなしており、
もはやTOEICの数値以上の実績を持っている。
でも、英語は学び続けないと衰えるんだよ、だから聴き続けないとねと言っていた。


英語だけでなく、積極的に講義に参加する姿も圧巻だった。
講師が勧める本、たとえばポーターの本の原書を海外のアマゾンで買って、
次回の講義までに読んでくるような人だった。


少し話はそれるが、その話を聞いたとき私は、
アマゾンのユーズド商品は、古本のイメージであまりよく思っていなかった。
ましてや、利用している人の話を聞いたことがない頃で、
英語が読めるとインターネットの活用方法の幅も広がるものだと思った。
インターネットの便利な使い方を、目上の人に教わったということも衝撃だった。


その人の話に戻すと、
経営関係の国際ライセンスなどもいくつも持っており、
私自身、こんなに凄い社員を間近で見たことがなかった。


正直、驚いてしまった。
労働市場から、年齢という指標だけで、
こんなに能力がある人がこぼれ落ちていくのかと。
実績も資格も人格も全て関係なく、
給与水準が高い人をカットするということなのかと。
経験とか貢献度とか、過去どうだったかよりも、若手を残すのかと。


当初私は、自分の申し込んだ講習会でなのに、受身で聞いていたため、
その人がどの講義にも集中して楽しんでいるのが、本当に不思議に見えた。


よく勉強していますね、面白いですかと言うと、その人は、
今はここにいてこれを勉強しなさいと言ってくれるからむしろ楽だよと。
それにね、勉強してなんとかなることなら、いくらでも勉強するよ、
だってね、最終的には自分がいる人間かを決めるのは他人だからねと言った。


自分が必要だと、相手に決めてもらうチャンスのときに、
せめて勉強くらいして準備しておかないと、チャンスを逃がすでしょ。
だから、勉強はずっとするものなんだよと言われた。
やる必要性が出てくる前から、ずっと勉強して準備しておかないとね、と。


当初私は、いい会社に勤めさえすれば、自分のキャリアは十分と思っていた。
でも、会社を辞めてしまえば個人として、
なんとむき出しでなんと心細く、名刺も肩書きもないのは落伍者だと思っていた。


でも、違うということがだんだんわかってきた。
所属する組織こそ一時的な名称の間借りであって、
自分個人がいかに基礎力をつけるかが大事だとわかってきた。


この人に出会ったから気づけたことだった。
当時たぶん50代に入ったばかりだったと思うが、まだまだ活力がみなぎっていた。
それでも、こういうエリートコースを歩んだ人でも力があっても、
超有名企業に勤めていても、実績や能力があっても一気に職を失うのだと思った。


お子さんは独立し、お連れ合いの方も有名なところで働いていて、
収入的に切羽詰った感じはなさそうだったが、
まだまだ第一線で働きたいと向学心がある方だった。


勉強すればなんとかなることなら、いくらでも勉強するよ。
勉強だけでなんともならないこともあるのは、
自分が判断を下す立場だったから十分わかるけど、
でも、勉強して準備できることがあるんだったら絶対やっておかないとね。


この一言は、それ以降、私が社会人として学び続ける原動力となっている。
この人に会って以来、私はいくつもの資格試験をとってきた。
そして、何歳でも勉強しないとだめなんだと痛いほど知った。


その方とはそれ以来、何度かメールをして会っていないが、
国際資格を新たに取得したのを武器に、
好条件での転職が実現したらしい。
英語も、資格試験も、その人がリストラ期間中に仕込んでいた勉強の成果である。


勉強してなんとかなることなら、やり続ける。
そういう基礎体力作りを怠ると、走り出したいときに走れないということを、
その人は教えてくれた。


もはや、転職は個人のスキルの売り込む場面なのだ。
勉強して学び続けていく人を、正当に評価してくれる場所にいけるよう、
勉強して済むことなら、勉強したほうがいいなと思う。


どこかに勤めているからといって、明日安泰で過ごせる保証など、
今はどんな会社でもないはずだから。


凄い経歴をもった人でも、職を失くす。
職を選ぶのに悩み、空白の期間が生まれ、
選んでもらえないことに苦悩する。
こういう現実を見ると、いくつになっても学び続けようと、
思わずにはいられない。


迷いの日々にいるならなおさら、
勉強でなんとなかなることだけでも、準備しておこうと思わされた。
そして、本当に実力があれば、その勉強の努力の先に光もみえるのだと思った。


学校の先生でも、上司でも先輩でもない、
社会でまったく偶然出会った、人生の先輩からそういうことを教わるとは思わなかった。
それだけ、エリートがエリートで生きられなくなった社会、
労働市場から取り残されてしまう実態を目の当たりにして、
背筋がぞっとしたのだ。日々、努力しないといけませんね。


自分でコントロールが可能なのは、勉強することとその成果だけなのだ。
この唯一の主導権をおろそかにはすまいと思う。


では、また。