ウェブがわかる本

こんにちは、検索迷子です。


今日は、大向一輝(おおむかい・いっき)著、『ウェブがわかる本』をご紹介します。

ウェブがわかる本 (岩波ジュニア新書)

ウェブがわかる本 (岩波ジュニア新書)


本書は、岩波書店のジュニア向け新書ですが、大人が読んでも面白い本です。
子供向けに沿った事例もありますが、大人が普通に読める本の作りになっています。
2007年発行のため、新しい技術動向を知るには向いていませんが、
ウェブの基本を知るには今でも十分に読める本です。


たとえば、ネットを始めたばかりの人で、
操作は少し覚えて使えるようになり、用語もなんとなく目にしてなじんできて、
もう少し興味がわいてきた段階で読むとよさそうです。


Webをわかりやすく説明した初心者向けの本は、できるだけ目を通すようにしています。
それが、シニア層向けや、子ども向けであればあるほど読みたくなります。
なぜかというと、仕事で必然性があって有無をいわさず、
インターネットを使い始める社会人層とは明らかに違うということもあるし、
日本のインターネット教育はどのようにされているか関心がとてもあるからです。


Webサイトがどういうものなのかということを、私自身は教わったことはありません。
とにかく使って覚えたり、
自分で書籍を買ったり、資格試験を通して学ぶといった完全に我流でした。
そのため、基本的なことが抜け落ちていたと後で知って、驚くことも多いです。


たとえば、ずいぶんと長く、ブラウザはパソコンとセットだと思っていました。
ブラウザを使い分けるとか、複数あるという感覚はなく、知識もなかったのです。
だから、パソコンを変えてしまうと同じことができないのではと思うくらい無知でした。


インターネットを使い始めたのは1996年くらいからだったと思いますが、
知識をもって体系的に学び直したのは、ここ数年のことです。
それまでは、ただ文字を入れてボタンを押せば何か出てくる箱、
くらいにしか考えていませんでした。


それは例をあげると、銀行のATMや、駅の券売機の仕組みをしらなくても、
シンプルな操作で何かができるという、
繰り返し学習により習得できた、単に慣れて使えるというようなレベルでした。


原理原則とか、インターネットの広がりとか可能性を、
知ることもなく、知る必要もなく、使っていた期間がずいぶんと長くありました。
知らなくても使えるという面はありますが、
より深く知るほうがインターネットの世界は楽しいと思います。
それに気づいた人と、気がつかず操作している人の差は大きいような気がします。


さて、前置きが長くなりましたが、本書の感想を書きます。
まず、本書の構成は、
ウェブの説明、変化の歴史、ブログ、SNS集合知、検索、
レポートの書き方、コミュニケーションなどバランスよく書かれており、
新書のボリュームとしてとても読みやすい分量だと思います。


子どもさん自身が自分のために読むこともできるし、
大人が子どもに教えるために読む、という読み方もできる本だと思います。


ただ、残念なことがいくつかあるため、
機会があれば、ぜひ見直していただければと思った点を記載したいと思います。


『ウェブがわかる本』へのリクエス

おもに「集合知」を始めとした取り扱いが、少し難しいと思いました。
気になった3点を挙げます。


1.集合知の用語の使い方の難しさ
集合知」の言葉を章見出しに使っていて、後半ずっと出てくる表現なのですが、
この用語は、社会人でさえもなじみが薄い言葉です。
ためしに検索エンジンを使って調べたところ、
この用語の意味を正確に伝えてくれるサイトは上位にあがってきませんでした。


なお、大向さんご自身が本書作成のために、
はてな人力検索で実際に質問した内容が上位にあがっています。
本書内にもこの質問は画像つきで紹介されています。

「これはすごい」と思う集合知のサイトを教えてください。


見方によっては、大向さんが用語を普及させている一人かもしれませんが、
少し意地悪く見てしまうと、
それほど検索されている一般用語ではないということもできそうです。


本書内では、さらっと書いてありますがそれでも難しいと思いました。

集合知とは、読んで字のごとく、みんなの知識や知恵を集めるということです。また、そうやって集めた知識のかたまりのことを、集合知と呼ぶこともあります。


そのあと事例がたくさん出てきますが、「集合知」がどういった用語なのか、
うまく伝わってきませんでした。
ナレッジマネジメントを学習した経験がある社会人や、
インターネットのコミュニティ機能に精通した人ならさておき、
本書の対象となる学生さん(中学生、高校生)や、
あるいは大人でも、「集合知サイト」の未経験者は、
この言葉がしっくりくるかどうかと思いました。


集合知という言葉は、知っている人は当たり前のように使っていますが、
日常会話ではおよそ出てこない単語です。
会社の場であっても、「情報共有したほうがいいね」とはいいますが、
集合知を結集させる」みたいなことは、プレゼン資料レベルの書き言葉かと思いました。


ただ、この用語の概念自体は大切なため知っておいてもいいと思います。
もし、用語を根付かせたいなら、
集合知(みんなの知識を持ち寄る)」といった、
注記つきタイトルでもいいかと思いました。


用語をあえて普及させたいのでなければ、
「情報を共有するしくみ」といった簡易な用語でもいいかと思いました。


私自身、大手コミュニティサイトの開設に携わった経験から、
集合知」のあり方をずっと考えてきました。
それでも、「集合知」を集める作業を通して、「集合知」という用語の一般化は、
運営しながらとても難しいと実感してきました。


実際にそのサイト上では、幅広い人に利用してもらうために、
集合知という単語で壁を作らないように、その言葉は一切使っていません。
私が運営者だった当時も、現在もそのようです。



2.レポートを書くこと、その事例サイトについて
一番の疑問として、レポートを書くという章がありますが、
中学生、高校生にとってレポートを書くのは実際にあるシーンなのでしょうか。
大学生では当然ありますが、私自身はそれ以前にレポートを書いた経験はありませんでした。


レポートを取り入れた学校はあると思いますが、
レポートを書くための調べ方としてはかなり難易度が高いと思いました。


レポートを書く章での事例や説明が「ジュニア新書」と思えないような、
高度なものを紹介しているという違和感がありました。
このレポートを書くという章だけ見ると、大学生以上を想定しているように思えました。


本書の著者である大向さんは、国立情報学研究所の研究者です。
大向一輝さんのブログ - 清澄日記


本書内の事例では、お仕事に関係の深いサイトや、
技術的な観点からサイトを紹介されていますが、
それが果たして読者層とマッチするだろうかと思いました。


次のようなサイトがそうです。
国立情報学研究所(NII) - Webcat Plus
新書マップ
ガソリン価格比較サイト gogo.gs


どれも、いいサイトではありますが、
連想検索や技術面の面白さ、サイトの独自性や専門性などにより、
そのサイトを利用してみようという動機になりにくかったりしそうです。
集合知の実感が持ちにくいものだったりするのではないかと思いました。


Webcat Plusは、主に学術研究者や大学生向きであり、
新書マップも新書のみの限定検索機能です。
私は、図書館司書講習を受講した際や論文作成を通して、
両サイトを深く、特性を理解して使った経験がありますが、
とても中学生、高校生向きとは少しいいにくく、
また残念ながら社会人としても日常的に使う機会はありません。


また、免許を持っていない学生さんが、ガソリン料金の検索をするでしょうか。
こうした事例の紹介は、せっかく画像つきで紹介しているだけに、
もっと深く技術面のよさを伝えるか、あるいは他のサイトにするか、
もう少し事例の出し方を考えていただければと思いました。



3.インフラストラクチャーの意味
4.検索の章の小見出しで、「ウェブを支えるインフラストラクチャー」とありますが、
これも難しい単語を使っているという印象を受けました。


インフラストラクチャーについては、注記や補足はありませんでした。
大人は、「社会のインフラ」といった用語を多少は耳慣れていて、
それを比喩的に使うことに若干は免疫があります。
でも、インフラって何?と聞いて答えられない大人もいるような気がしました。


また、ここで使っている「インフラストラクチャー」は、
単語を検索すれば出てくるというものではなく、
検索が、社会基盤になるほどに生活に当たり前の行為になってきた、というたとえですね。
やはり補足がほしい用語の一つだと思いました。


たとえば、用語を以下のサイトで理解しても、
学生さんは、検索がインフラになった、という比喩はピンとくるでしょうか。

Wikipedia - インフラストラクチャー


インフラストラクチャー(infrastructure、略称・インフラ)とは、国民福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設を指す。

国民福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設とは、学校、病院、道路、港湾、工業用地、公営住宅、橋梁、鉄道路線、バス路線、上水道、下水道、電気、ガス、電話などを指し、社会的経済基盤と社会的生産基盤とを形成するものの総称である。


以上、いくつかのリクエストを書きましたが、
本書全体についてはとてもいい本だと思います。
もし私が、学生さんや親御さん、教育者やシニア層、
社会人であってもインターネット初学者にインターネットを教える機会があれば、
ぜひ、本書をすすめたいと思います。
それくらい、本書は好感が持てる本です。


それなのに、なぜ私がリクエストしたいと思ったかというと、
私自身が、インターネットの世界にいる人間であり、
情報教育や普及について自分もプロの一人でありたいという思いからです。


特に、インターネットの初心者、不慣れな人が、
検索をする、Webサイトを閲覧するなどのインターネットを使う行動において、
誰も混乱させたくない、検索迷子を作りたくないという願いがあります。


インターネットを使う入口で、Webサイトを見るその場所で、
少しも迷わず、調べたいことを調べる、目的にたどりつけるように、
ナビゲートしたいと思っています。それゆえの願いをこめたリクエストです。
余談ですが、検索迷子をナビゲートしたい思いのために、
私のブログは「検索迷子」という名前なのです。


一冊の本で、ここまでリクエストをあげることは本当にまれで、
それくらい熟読して、私ならここを直すのにという当事者意識をもって読みました。
Webを使い始めたばかりのころに出会いたかった一冊ですね。


では、また。