話を聞く技術

こんにちは、検索迷子です。


子どものころ、ある地方紙の一面に、顔写真つきで掲載されたことがある。
手元にそれを持っていないのだが、話題の人みたいなコーナーで、
お稽古ごとの先生からの推薦によってインタビューを受けた。


学校を通してインタビューの申し入れがあり、
ソファで新聞記者の人と向き合い、いろいろ話を聞かれた。
でも、何を話したのかは覚えていない。


ただ、できあがった紙面を見て、いたく失望したことは覚えている。
ものすごく大きな顔写真つきで、まるでものすごくいい子のように書かれていて、
これは誰のこと?と思うようなものだった。
クラスメイトと、これはどこの誰の話だろうねと笑いあった記憶がある。


仕事をするようになり、
インタビューされることと、インタビューすることを両方経験してきた。
インタビューされた数はそんなに多くはないが、それでも、
担当した業務の話だったり、自分個人を取り上げてもらったこともある。


残念ながら、掲載記事は何も持っていない。
救いなのはネット上で公開されていないものばかりということだ。
たぶん、持っているのが恥ずかしくなるような書かれ方だったのだろうと思う。
業務の話は、たぶん広報がチェックして掲載許可を出したはずで、
内容についてはあれこれは言う余地はない。
でも、個人を取り上げられたものは、
子どものころに感じた、これは誰のこと?と思うような内容だったのだろう。


インタビューした経験は、著名人も一般人もそれぞれ経験がある。
実は当日は、準備さえしていればそんなに緊張をせずに話せてきた。
それよりも問題は、ご本人もしくは関連する場所に確認をしてもらったときの反応だ。
これが何よりも怖く、何よりも冷や汗を書くようなことだった。


幸い、これでは困ると言われた大きなことはないのだが、
どんなに録音してインタビューをして、何度も聞き返しても、
たぶんご本人の意図と微妙にずれていることもあるのだろうと、
子ども時代の経験から推測してきた。
たぶん、だいたいこれで間違いないというレベルだったのだろうと。


インタビューのあれこれを思い出したのは、
永江朗(ながえ・あきら)さんの『話を聞く技術!』を読んだからだ。

話を聞く技術!

話を聞く技術!


著者の永江さんは、フリーライターとしてご活躍されている方だ。
ご自身がインタビュアーにもなり、
インタビュイー(インタビューを受ける人をこう呼びます、と本書のあとがきより)となる人だ。


「話を聞く名人に、話の聞き方について聞いてみよう、
というのが本書のコンセプトです」とあとがきにあるが、
「話を聞く名人同士が、話の聞き方を語り合った本」と言うこともできるだろう。


この本に登場する方たちが、また凄い。
黒柳徹子(くろやなぎ・てつこ)さん、田原総一朗(たはら・そういちろう)さん、
ジョン・カビラさん、糸井重里(いとい・しげさと)さん、
小松成美(こまつ・なるみ)さん、吉田豪(よしだ・ごう)さん、
河合隼雄(かわい・はやお)さん、石山修武(いしやま・おさむ)さん、
松永真理(まつなが・まり)さん、匿名の刑事さんなどだ。


本書の出版は約5年前なのだが、
今、あらためてこのラインナップを見て思ったことがある。
それは、5年経っても話を聞く仕事のプロとしてご活躍されているということだ。


5年前は凄かった、ということではなく、
今もなお、話を聞くプロとして、インタビュアーとして、
第一線で発信して、誰かの話を聞きだしてくれているということだ。


こういうお仕事を続けていける方たちの気配り、
相手に話したいと思わせる場の空気の作り方は、
本書を見るだけでも、そんなに簡単にできることではないと思った。
細やかな配慮、人への思いやり、
インタビュイーへの好奇心、それぞれが総合力として発揮され、
あなただから安心して話せますという雰囲気を生み出しているのだろう。


話を聞くことは、技術なのだとつくづく思わされた。
だから、本書のタイトルは、話を聞く技術!と!付きなのだろうか?
聞くというスキルを身につけたいものだとつくづく思いました。


聞くことは、信頼されることから始まると思うと、
インタビュー前日、急にプロフィールを予習したくらいではだめなのだと思います。
自分という人間そのもので向かい合っていくことが必要なのでしょう。


本書で印象深かったのは、
黒柳徹子さんが「スキャンダルとゴシップは訊かない」としていながらも、
唯一、そういう渦中の迎えたゲストがいたそうだ。
それは三浦友和さんだった。

黒柳  ところが突然、そういう渦中にゲストがいらしたことがあるんです。山口百恵さんが、舞台の上で、「私には好きな人がいます」とおっしゃったんですよ。三浦友和さんのことです。百恵さんがそういうことをおっしゃるのは初めてだったから、大騒ぎになりました。それが日曜日。次の日の一本目の収録が三浦友和さんでした。ゴシップがいやだなんだといっても、これは聞かないわけにはいかないじゃないですか。
−  タイミング的に、聞かない方が不自然なくらいですね。
黒柳  三浦さんに、「昨日、百恵さんがおっしゃったことはお聞きになりましたか?」と言うと、見てないとおっしゃるの。「それじゃあ、私も見たいので、いっしょに見ましょう」と言って、ふたりで芸能ニュースの百恵さんが、舞台で言ってらっしゃるシーンを見て、「これだったんですね」と。それで「で、どうです?」とね。(笑)


うわー、すごいな。こういうことを聞けたり、言えたりする関係になれるなんて。
少なくとも、収録の場に来てくれるということがまず信頼されているように思いました。


これを引き合いに出したのは、芸能ネタだからということではありません。
こんなに話しにくい話ほど、誰に話してもいいわけじゃないはずなのに、
そのとき、三浦友和さんから話してもいいという人に選ばれた、
一緒に映像を見られるような、そういう雰囲気になった、
信頼関係が築けたということが本当にすぐれたインタビュアーの証だと思いました。


相手を裏切らないように、話を促すという点で、
聞く力は優れた能力であり、財産だなと思います。
話すよりも、聞くことのほうがずっとずっと難しい。


聞くことは技術ですね。


では、また。