「戦争」を選んだ歴史

こんにちは、検索迷子です。


8月15日は終戦記念日だ。
だからというわけではないのだが、かねてから気になっていた本を読了した。


『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子(かとう・ようこ)著だ。

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

それでも、日本人は「戦争」を選んだ


本書は、著者である東大の教授で日本近現代史を研究する加藤さんが、
中学1年生から高校2年生を対象に行った、
5日間の講義をもとに編まれた本である。


2001年9月11日のアメリカの同時多発テロのことを、
導入段階で学生に話しているが、本書の内容は以下の目次の通りである。

序章 日本近現代史を考える
1章 日清戦争  −「侵略・被侵略」では見えてこないもの
2章 日露戦争  −朝鮮か満州か、それが問題
3章 第一次世界大戦  −日本が抱いた主観的な挫折
4章 満州事変と日中戦争  −日本切腹、中国介錯論 
5章 太平洋戦争  −戦死者の死に場所を教えられなかった国

歴史に詳しくないので、いつの時代のことかをおさらいしておく。
本書によるとこの講義は、
歴史に興味がある「歴研メンバー」の学生を中心に行われたようで、
単語の解説や年号の確認などをいちいちしないでも理解できる状態だったため、
時系列を把握するには、本文を丹念に読むしかない。


すでに歴史を知っている学生に、より深く歴史の背景をひもとき、
当事者意識をもって考える内容の講義のため、
学校の事実を記述した味気ない教科書とは大きく違う。
まだ本書を未読の方は、歴史的な背景を知っておくと興味が増すだろう。

Wikipedia - 日清戦争
Wikipedia - 日露戦争
Wikipedia - 第一次世界大戦
Wikipedia - 満州事変
Wikipedia - 日中戦争
Wikipedia - 太平洋戦争



戦争の歴史を知るだけではない、読み方をする

私はまるで歴史に興味がない子ども時代をすごし、
歴史につきものの、年号の暗記すら満足にしなかった。
だから、敷居が高そうな本だと思いながら読み始めた。


大人になって、会社の経営者や著名人が勧める本に歴史書が頻繁にあり、
過去から学ぶことの大切さはわかる気がしたのだが、
いかんせん、歴史関連の素地がなく、未知な単語の連続で、
読むことが苦手だった。


話題になった本ということもあり、久々に歴史の本を手にしてみて、
意外なことにとてもすんなりと読むことができた。
それは、3つの理由による。


1つは、戦争はそれ単体で発生したり、継続するわけではなく、
貿易や資金繰り、国債や租税といった経済活動と密接にかかわり、
国民の生活や移民といった人口構成などにも影響するということの理解だった。


戦争は過去の出来事として、偉い人同士が勝手に決めて勝手に始めて、
勝手に終わっていたことというものだと思っていた。
そこには、多くの人々の命が犠牲になったという理解だけだったが、
資金面はどうだったのか、株価変動や、国際的な地位はといった要因もあった。
ということを考えてもみなかった。
戦争はそれだけで起こるわけではなく、一国の全てを揺るがすのだと思った。


2つめは、なぜ、戦争が起こったのか、誰が判断したのか、どんな人物がかかわったのか、
ということによる広がりだった。
他のジャンルで知った名前が、戦争という場面で登場してくると、
ああ、そういうことなのかという発見が多かった。


たとえば、福澤諭吉ケインズ伊藤博文秋山真之(あきやま・さねゆき)といった、
経済学や文学書を通して知っている人が関わっていたということだ。


また、満州からの引揚げ者のなかにいた、
あしたのジョー』の漫画家ちばてつや
天才バカボン』の赤塚不二夫芥川賞作家の安部公房など。


もっと戦争の中核にいた人物が本書には多数登場するのだが、
歴史というジャンルではなく知った人の名が、
ああ、この人がこの時代に生きたのだと思うと、
戦争が教科書だけのことではないと思えるようになった。


3つめは、本書を通して、歴史とは考えるために語り継がれて、
研究されているのだとわかったことだ。
歴史上の出来事をなぜそれが起きたのかと疑問を持ったり、
自分ならどう考えるのかという主体的に受け止めることが大切だと思った。


実際にこの講義では、あなたならどう考えますかとか、
なぜこうなったのでしょうかという問いかけがたくさん出てくる。
生徒は必死に考える。
教科書には出てこない、誰からも教わったことのない過去を、
そのとき起きた時代背景から推測していく講義だった。


歴史が考える学問だと思ったことがなかったため、
この連続的な問いはとても戸惑った。
作戦計画の立案者だったらどう考えるか、
どんな判断をして、戦争は始まったのかなんて、私は考えたこともなかった。


学生さんたちは本当に優秀で、一生懸命答えを導きだし、
何かと何かの事実をつなげて想像力を働かせていた。
この戦争と、この事件はつながるのだと思うと、
戦争はいきなり起こるのではなく、起こる前に準備がされていたり、
起こるきっかけがあったのだとつくづく知らされる。


ひとつ、残念なのはこのときの情報手段がよくわからなかったため、
宣戦布告や連絡にどのくらい時間がかかって、
どんなスピードだったのかが少し理解できなかった。


後半、郵便や、電報、ラジオの普及率などが出てきたため、
そこは映画などで見た映像でイメージできたのだが、
国内外、1800年代後半に、戦争に関わった国や、
日本国内でどうやって情報を仕入れて、どう伝達していたのだろうか。


話は脱線したが、
本書は、戦争を通した歴史を通して、
日本という国でどう生きるかを考えさせてくれる本だと思った。
戦争ということだけでなく、日本人として、
島国の日本で生きるということに対しても、何も考えたことはなかった。


そして、
学生時代にこのような講義を受けた学生さんは、とても幸せだと思った。
テストのため、年号の丸暗記科目として歴史があるのではなく、
歴史の積み重ねのなかで、私たちは未来を考えていくのだと、
中高生のうちから知れるのは素晴らしいことだ。
そして、本質を教えることのできる、すぐれた教育者と、
思春期に出会うということの大切さも知った。


歴史との対話を繰り返す

それにしても、過去に映画で観たものが、今思えば、何を観ていたのだろうと思う。
エンターテイメントのようにしか思っていなかったのだろう。
パール・ハーバー』とか、『硫黄島からの手紙』『父親たちの星条旗』とか、
もっと戦争に関する映画は観たような気がする。
なのに、覚えてない。

パール・ハーバー 特別版 [DVD]

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硫黄島からの手紙 [DVD]

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父親たちの星条旗 (特別版) [DVD]

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また、本書から得た知識として、
学生時代に習ったような薄い記憶を改めて思い出したのが、
アメリカの第16代大統領リンカーンの「人民の、人民による、人民のための」が、
日本国憲法に見出されるという記述だった。

なにが日本国憲法をつくったか


 この、一度見れば忘れない"of the people,by the people,for the people"は、実は日本の現行憲法の中にも見出される表現なのです。それは1946年11月3日に発布された日本国憲法前文の一節にあります。


    そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、
    その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、
    その福利は国民がこれを享受する。

そして、この文章の「〜由来し」までが「of the people」、「行使し」までが「by〜」、
「享受する」までが「for〜」としている。
続けて、日本国憲法の条文自体が、
戦後、連合国最高司令官総司令部GHQ/SCAP(ジーエイチキュー/スキャップ)側が、
準備した草稿を元に書かれたということを説明している。
日本国憲法一つとっても、自分の理解は浅いなと思いました。


最後に、これは覚えておこうというものをご紹介します。

日本史の学習は「将来きっと役に立つ」といっても、若い心の琴線に触れることはできない。中高生のハートをつかんで日本史の方に向かせるには、歴史上に生きた人々が発した、根源的な「問い」が生まれた現場を見せるところからスタートするしかないのではないでしょうか。
(中略)
 さて、それでは、第一線の研究が生み出される原初の場を見せるとは、具体的にはどういうことをいうのでしょうか。E・H・カーという英国の歴史家が1930年代に抱いた切実な「問い」について、これからお話したいと思います。
(中略)
 著書のなかでも最も有名なものは『歴史とは何か』(岩波新書)ですが、いま冷静に読めば、なぜこんな難解な本が売れたのかと思ってしまうぐらい、暗い暗い不思議な本です。この本は1961年にケンブリッジ大学でなされた連続講演をもとにしたものですが、内容は、実はとっても難しいのです。ですが、みなさんでも、さびの部分はよく引用されるので、聞いたことがあるかもしれません。


   歴史とは現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話 

歴史とは何か (岩波新書)

歴史とは何か (岩波新書)


あー、このフレーズは聞いたことがある。
そうか、これは歴史家が発したのかと思うと、重みが本当にある言葉だ。
現在と過去との間の対話、そして、それは尽きることがない。
こうやって、歴史から学んでいきたいと思います。


本書によって何よりも収穫だった点は、不得手と思い込んでいた歴史関連の本、
歴史から何を学ぶか、歴史だけがぽっかりと浮いているわけではない、
ということがわかり、ジャンルへの毛嫌いがなくなったということでしょう。
戦争という一つのテーマだけでも、こんなに考えられる。


だから、歴史に疑問を持ちながら触れて、
今この時代に日本に生まれ、終戦記念日を迎えるこの日に、
日本人として、人としてどう生きるのかを考えてみたいと思います。


平和であり続けることを、本当に切実に願いたい。
日本だけでなく、世界中のすべての国や地域に、争いのない日が来ますように。
心から、平和を祈りたい。


では、また。