経営者の孤独

こんにちは、検索迷子です。


政治に明るいわけではないが、ずっと気になっていた一冊を手にした。
リクルート事件江副浩正の真実』江副浩正(えぞえ・ひろまさ)著だ。

リクルート事件・江副浩正の真実

リクルート事件・江副浩正の真実

英文版もあるようです。


なぜ今、この本なのかというと、
この事件が報道された時、非常に鮮烈だったことを覚えていて、
いつか読み解きたいと思っていたからだ。


いったい、何が起きているのだろうと、その背景には何があるのだろうと、
ニュースで逐一追うだけではなく、
俯瞰できる状況が整ってから読みたいと思っていた。


その後、報道されている事件の中身を追いかけるというより、
リクルートが企業として持続して発展していくさまや、
創業者である江副氏の存在感が気になっていた。


この本のなかで、経営者の苦悩を垣間見る文章をいくつか見て、
どんな大企業でも創業者のこうした葛藤の連続から、
どこかから力が生まれて、持続的企業に発展を遂げていくのだろうかと思った。
そして、やがて創業者の手から離れて、一企業として独立していき、
私物ではなくなり、社会性を持った存在になるという様子が伝わる。


本書は、江副氏が理路整然と事実を書くくだりもあれば、
特捜の取調べのさかな、自殺願望が高まり墓を予約するといった記述もあり、
強さと脆さ、責任感、自分の意志への身の置き所など迷いも見られる。


なかでも、どんなに社会的に認知される業績をあげて、
知名度があがっても、一人の人間としての孤独感が伝わる次の一文は、
何度も読み返した箇所だ。

長いあとがき


なぜ、多額の政治献金をしたのか


私は先達から多くを学んでいた。それらの会のなかに政治家を囲む会があった。
そのような環境に身をおき、一方で後に続く優秀な社員に追われてもいた。私は常に自らもっと学ばなければならない、成長しなければならないという強迫観念に駆られていた。私は絶えず緊張していて孤独でもあった。多くの人と交わることで、学ぶと同時に、乞われるままに多額の政治献金を行い、心のバランスをとっていた。
 私は「リクルート時代、精一杯の背伸びをして、道を踏み外してしまった」といまになって深く反省している。


リクルートは、広告の本を無償で配るというビジネスモデルの独自性で、
事業は飛躍的に発展した。
人のライフステージのどこかで、必要となる情報をピンポイントで提供し、
需要と供給を上手く仲介してきた。


こうした、天才的なひらめきをもって始まり、広く世の中に受け入れられ、
浸透をしたサービスを考え出した、創業者をしても孤独感や焦りのなかに、
身を委ねることになるのかと思った。


本書はいろんな読み方ができる。
捜査のあり方、政治家と企業の関係、一企業の体質、
ベンチャー企業の光と影、メディアのあり方など、
読み手によって関心の持つ場所が違うだろう。


私も読み始めるまでは、リクルートという会社に対する関心だった。
この事件の大きさを、もう一度捉えなおしてみたいという気持ちだった。
が、読み終えてみると、江副氏が経営者としてどう生きたか、
ということに興味がわいた。



読後にすぐに感じたことは、実は政治でも企業でもない。
経営者は孤独だ、という思いだった。



そして、谷川俊太郎氏の『二十億光年の孤独』の詩が浮かんだ。

ウラ・アオゾラブンコ − 二十億光年の孤独

(前略)

万有引力とは
ひき合う孤独の力である


宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う


宇宙はどんどん膨んでゆく
それ故みんなは不安である


二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした

二十億光年の孤独 (集英社文庫)

二十億光年の孤独 (集英社文庫)


余談ですが、谷川俊太郎氏の読みは、たにがわ、だとずっと思っていましたが、
たにかわ・しゅんたろう、が正しいのですね。
知っていると思うことでも、ときどき、調べてみるものですね。

Yahoo!百科事典 - 谷川俊太郎


どんな孤独であれ、思わずくしゃみをする。
消えない孤独だからこそ、そうやってつきあっていくしかないのかもしれない。


企業人として生きる前に、人は一人の人間なのだと思わされた。


では、また。