『星守る犬』試写会

こんにちは、検索迷子です。


星守る犬』の試写会に行ってきました。
今日は、その感想を書こうと思います。
映画『星守る犬』の公式ホームページはこちらです。


ストーリーや周辺情報については、以下にも詳しい。
Wikipededia - 星守る犬

漫画が原作の評判作


本作品は、村上たかしさん著の『星守る犬』が原作である。
雑誌ダ・ヴィンチで、BOOK OF THE YEAR2009を受賞し、
泣ける本としての前評判が高い作品である。

星守る犬

星守る犬

続編の、『続・星守る犬』、
ノベライズ版『星守る犬』もあるようだ。
続・星守る犬

続・星守る犬

星守る犬 映画ノベライズ (双葉文庫)

星守る犬 映画ノベライズ (双葉文庫)


星守る犬とは


タイトルになっている『星守る犬』は、
この映画の主役ともいえる白い秋田犬と直接関係するのかと思っていたら、
どうやら、失踪したこの犬とその飼い主を探す男性の祖父が、
自分たちの飼い犬(クロ)を見て言った言葉からきたものだった。


祖父が語った言葉の意味とは、前出のWikipediaに記述があるとおり、
「犬がもの欲しそうに星を見続けている姿から、
手に入らないものを求める人のことを指す」という意味の言葉であると
作中で語られている。


それが、具体的に誰のどんな行動なのか、何をさすのか、
その答えは映画のなかから一人ひとりが見つけていくものなのだろう。

泣ける映画という受け止め方は多様


本作を観る前は、犬が登場する泣ける映画、というくらいの知識しかなかった。
飼い犬がけなげに主人を待ち続ける、ひたむきに行動する、
そういう動物映画の王道なのかと思っていた。


でも、実際に観終わって、私は泣くことができなかった。
胸が締めつけられるシーンはたくさんあったけど、
どこの状況で、誰に、何に感情移入するかでこの映画の見え方は全然違うと、
観ている最中から気づいて、何か冷静になってしまった。


ストーリーだけ書くと、
北海道の名寄市で、身元不明の中年男性と犬の遺体が発見されて、
かつて身内や飼い犬を失った天涯孤独の市役所職員が、
その男性が残したたった一つの手掛かりであるレシートを元に、
足取りを追いながら、さまざまな背景を持った人たちと出会い、
やがては何かを愛する力を取り戻す話だ。


本当の主役は、中年男性と犬だと思うのだが、
その足跡をたどる市役所職員が、
なぜ見ず知らずの人の最期の瞬間までの時間までに、
それほど強い関心を持ったのだろうかと思う。


足跡をたどった後ですら、
観客は中年男性と犬の行動の全貌がわかるものの、
この人は中年男性が犬と最期まで生き抜いたことと、
犬が中年男性が亡くなった後、さらに半年間もそばにい続けたという、
その忠誠心とか飼い主との絆の深さだけしか見えていない。
それでも、心打たれるものがあったのだろう。


観る人の、それぞれの背景や見方によって、
どこに引き込まれるかは違うような気がした。
単純に泣ける作品だよとは紹介しにくいと思っている。

誰に、何に、心を揺さぶられるか


西田敏行さん演じる中年男性(おとうさん、という役名)は、
リストラされ、病気を患い、家計を支えていた妻と熟年離婚をし、
あるときワゴン車に家財道具を詰め込み、愛犬のハッピーと旅に出た。


これはやがてくる死への旅だったのか、
新天地での再生のためだったのか、正直わからない。
死ぬ間際、死にたくないと言っていたが、
この一言を聞くまで、生への執着を強く感じられなかった。
かといって死の願望があったわけではないのだが、
力強く生き抜くというより、
全てを一気に失ってしまって生きる気力がそがれていたようだ。
それは、さまざまな苦難のなかでのあきらめだったのかもしれない。


行くあてもなく北上して、
人に助けられたり、だまされたりしながら、
やがて仕事も見つからず資金も尽きて、
愛犬に与えるおやつもわずかとなった。


これ、もう買ってやれないから味わって食べろよ、
その一言が妙にせつなかった。
そして、道中、犬を飼いたがっている人にハッピーを託そうとした。
でも、別れのその瞬間、普段は温和なハッピーは猛烈に吠えて抗議し、
結局は、苦労をかけることを承知で一緒に旅を続けることにした。


自分と一緒にいることが本当にいいのか、
そういう迷いがあるなかで、でも一緒にいることを選んだ。


私自身ペットを飼っているため、
この一連の話は、自分に引き寄せて考えてとても苦しくなった。


でも、犬だからということではない気持ちが大きかった。
愛するものを守る義務がある人が、失業して再就職の見込みがないなかで、
目減りするお金と健康不安と、どうしたら生きていけるのかという迷いを、
短期間でも経験した人なら、この映画は単純に泣けないような気がした。
あまりに、生きていくことと仕事やお金とのかかわりがリアルすぎて、
お金がなければ、死を待つしかないのだと思わされてしまう。


今日を明日へとつないで生きていく苦労をしたことがあるひとなら、
対象がペットでなくて、家族であったとしても、
同じような気持ちになって、ちょっと苦しくなるかもしれない。
飼い主と犬の絆の深さだけでは解決できないことばかりが、
現実にはあるのだということを知ってしまう。


仕事も見つからず失意のなか、
廃墟となった街並み(夕張あたりなのだろうか)を車を走らせるシーンも、
それがセットではなくてリアルな現実として見つめながら、
日々そこで生きている人にとっては、あまりにつらい光景だろう。

出会う人たちの痛みも知る


この作品に出てくる俳優さんの素晴らしさも手伝って、
一人ひとりが心の痛みの物語を持っているということが、
また話を深くしている。


玉山鉄二さんが演じる市役所職員は、幼少期に両親を交通事故をなくし、
名寄市の祖父宅に引き取られた直後に祖母を亡くす。
そして、その心の空洞を埋めるために祖父がクロという名の子犬を
与えてくれるが、最初はかわいがっていたものの、
やがて冷たくあたってしまうようになる。


愛するものを失うつらさが、愛しすぎないようにしていたのかもしれない。
そして、図書館の本ばかりを読む、心を閉ざした大人になっていった。
クロは社会人になったときに亡くなってしまい、
それ以来六年間、本当に孤独な生き方を好んできた。
何かを愛する力などまったくないような日々を生きていた。
そんなストイックさをうまく表現していたと思う。


そして、中年男性のことをきっかけに、
犬を可愛がってやらなかったことを悔い、人らしい感情を取り戻していき、
何か本作品のラストの行動はわずかな光となった気がする。


川島海荷さん演じる旭川の女の子は、
家に再婚した父親と、自分への愛情を注がなくなった母親のなか、
家に居場所がないと感じ、オーディションを受けるも不合格となる。
中年男性の身元探しの道中を偶然、一緒に過ごすのだが、
彼女は彼女なりに、自分の生きる場所で生き方を見つけようとしていく。


ほかに道中で出会った人たちとして、
余貴美子さんの旅館のおかみさん、
中村獅童さんのコンビニ店長、
温水洋一さんと濱田マリさんのリサイクルショップの夫婦、
三浦友和さんの喫茶店のマスターなど、
生きるって、愛するものを失うものの痛みって、
それでも生きていこうとする力って何だろうとエピソードのたびに、
なにか考えさせられた。
なかでも、三浦友和さんの静かな演技は好感がもてた。


元妻役の岸本加世子さんは、
犬嫌いなおとうさんだと知りながら、
子どものために、ハッピーを無理やり飼ったことを事後報告したり、
おとうさんの車用にハッピーのぬいぐるみを作ったりして、
家族がうまくいっているときの茶目っ気のあるときから始まって、
幸せそうな妻そのものから演じていた。


夫が失業して家計を支える側となり、親の介護も重なり、
娘の反抗期への対応も一人で担うストレスを爆発させるところまで、
感情の起伏の表現のしかたがほんとうによかった。
家族ってこんな風に壊れるものなのかと思うところが痛かった。

犬の習性の不思議


おとうさんが病弱になり、真冬になって、
食料が確保できなくなったときハッピーは街中で残飯あさりを始める。
みるみるうちに薄汚れるのも痛々しかったが、
売れ残りの食パンなどを運ぶ姿をみて、不思議な気持ちになった。
本当にそういう行動ってとるのだろうか?


それから、ハッピーが怪我をしてしまったあとの行動、
途中でもう命がつきそうになったとき、
それでも、ワゴン車まで戻ろうとする気力を振り絞った行動など、
そういう本当のことは犬に聞けないエピソードが、
ファンタジーぽくもあり、ちょっとわからない気がした。

この映画を誰に勧めたいか


いろいろ書いてみて、映画が終わるそのときまで、
星守る犬の試写会レビューがこういうトーンになるとは、
自分でも思いもよらなかった。


飼い主と犬の愛情物語と一言では片付けられない、
社会の縮図、家族や愛情をそそぐ対象との距離感など、
深く、深く考えさせられた。


逆に、犬がただかわいいというストーリーではないので、
ぜひ、たいせつな人と一緒に見に行って欲しいと思うし、
大人こそ鑑賞してほしい作品だと思った。


愛するものを、愛しぬこうと思う作品だった。
そして、何かを愛する力を失いかけた人こそ、発見は大きいような気がした。


もちろん、ペットを飼っている人は、
ペットも家族なのだと再確認できるだろう。
もっと遊んでやろう、もっといい思い出を作ってやろうと思うだろう。


愛するものを、どうやって生きている時間を過ごすか、
この一瞬一瞬を大切にしたいと思った。


途中、あれこれ考えることはあったけど、
いきついたシンプルな感想は、愛するものを守ろうということ、
それに尽きる。


ハッピーがどんな瞬間でも、いつも笑顔なのは、
微笑ましくもあり、せつなくもあり、
笑顔のなかでも笑顔の度合いが違うのだなとわかった。


手に入らないものを願い続ける、星守る犬になってしまわぬように、
今、そばにいる存在と手に入る時間のかけがえのなさを実感して、
今をたいせつに生きよう。
過ぎた時間は戻らない。


永遠の命は願えないかもしれないけれど、
永遠の愛情を心にとどめておきたいと行動することはできるはず。


では、また。