石津ちひろ「ありふれたあさ」−震災後に願う、ただ一つのこと

こんにちは、検索迷子です。


震災から5年目の3月11日を迎える。
思いはそれぞれあるだろう。


痛みや課題は、
時間が解決してくれるものもあるだろうが、
時間すら解決にはならないものがあるのもまた、
現実だと、5年という時間を見つめ直す。


天災で失われた、数多くの命や物や時間によって、
当事者でなくても、どう命を向き合って生きるか、
自分だったらどうする? 
と目の前に本質的な問いがそっと差し出され、
時折、答えを探そうとあがいたり、
考えてもしかたないと開き直ってきたり。


でも、ひとつはっきりと言えるのは、
ごく普通の毎日が、普通に代わり映えなく、
何も意識せずに流れることのかけがえのなさが、
何よりも贅沢だと思うようになったことだ。


今日は、震災後に出版された詩集、
『続・一編の詩があなたを強く抱きしめる時がある』
水内喜久雄(みずうちきくお)さん編著、PHP研究所刊より、
石津ちひろ(いしづちひろ)さん著、
「ありふれたあさ」を紹介したい。

続・一編の詩があなたを強く抱きしめる時がある

続・一編の詩があなたを強く抱きしめる時がある


石津さんは詩人であり、『リサとガスパール』シリーズの
絵本の翻訳者としても知られているかたである。

リサとガスパール おたんじょうびおめでとう

リサとガスパール おたんじょうびおめでとう

   ありふれたあさ  
              石津ちひろ


あさおきて
おおきなのびをする
まどをあけて
とりたちのさえずりをきく
おゆをわかして
かおりのいい紅茶をいれる
なんでもない
ありふれたあさ
なんにもない
ありふれたあさ
いつもある
ありふれたあさ
いつまでもある
とおもいこんでいた
ありふれたあさ


この詩集は、水内さんがテーマ性を持って
編集しているものだが、
石津さんの詩集『ラブソング』にも掲載されている。

ラヴソング

ラヴソング


詩集の発行年から、2007年くらいに作られた詩で、
震災後に書いた詩ではないが、
この詩は、まるで震災後に読まれるために書かれた
ような詩にも思えるのだ。


この詩は、約3年前にも紹介している
震災直後、自分にできることは何だろうと、
ひたすら心を癒す詩を探し、紹介し続けていた。
私にできることは昔も今も、ただそれだけだけど、
何もしないよりはずっといいと思って、
時折こうして詩を紹介している。


そして今年また、同じように詩を探して
みたとき、いろんな詩集を新たに見たり、
過去に紹介したものを見返したのだが、
やはりこれが自分としては一番しっくりくる。


ありふれたあさ、を迎えることが、
生きる根源なんだと読むたびに思えるこの詩は、
シンプルな表現ながらも、
生きていることを実感させてくれる。


実は最近ずっと、今日どの詩を紹介するのか考え、
ぼんやりしていたのか、
健康診断で訪れた病院の更衣室で着替え中に、
足元のマットですべり、
転倒して背中に大きな打撲とすり傷を負った。


健診には問題がないと健康なのがわかった直後、
外科の先生に急遽来ていただき、しばらく冷却のため
病院で横になるとは思いもよらなかった。
大けがではないが、これがもし頭を打っていたらと
考えると本当に気を付けようと思った。


それで、自分の不注意は棚に上げて書くと、
つまりはこういうことなんだと思った。


朝を迎え、健康に過ごし、眠って、また起きる、
その繰り返しがいかに幸せなことなのかと。
だから、その普通の時間を損なわないよう、
しっかりと生きなくてはと思ったのだ。


震災の日、私は休日で自宅でペットと遊んでいた。
一度目の揺れを感じ、ペットが狂ったように暴れ、
それをなだめるために上から覆いかぶさった瞬間、
ペットはほっとしたかのように、まさに全身の力を
すとんと抜いた。
ああ、この命を守らなければと思った。


そして、揺れが収まったとき、避難する可能性も
あるかもと、ペット用品をおもむろにバッグに
詰め始めた。
と、石津さんの詩を紹介しながら気づいたが、
偶然にも、そのバッグは「リサとガスパール」の
ものだった。



ありふれたあさ、
それが一番、かけがえのないものなんだ。


ありふれたあさ、それ以上はいらない。
それさえ手に入らない日々がずっと続いてしまう
のを知ってしまうと、
生きる視点がまるで変ったような気がする。


あの日から5年。
あの日以降、そしてこれからも、
どう命と向き合い、生きる時間と向き合うのか、
今日という点の日付だけでなく、
ずっとずっと考えていきたいと思う。


願わくば、誰もが願った5年後に今が近づき、
ありふれたあさが、あちこちにちらばり、
さらに、5年後にもっと幸せであることを。


いつもある、ありふれたあさを。


では、また。